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弁護士法人 杜協同 阿部・佐藤法律事務所は、企業法務・行政・医療・倒産事件を専門とする弁護士法人です。

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法律問題Q&A>市民のための法律入門NEWS&FAQ

1.婚姻・離婚・親権

【婚姻に関する問題】
  • Q1: 次の場合、B子さんはM男さんと結婚することができるでしょうか。
     「婚約者のM男さんと結婚するために婚姻届を市役所に提出しようとしたところ、何と3日前に、全く知らないうちに知人のW郎さんとの婚姻届が出され戸籍上夫婦になっていたことが判明しました。」
  • A: 民法732条は「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。」と規定しているため、B子さんとW郎さんとの間の婚姻届けにより、両者の間に婚姻が成立しているとすれば、そのままではB子さんはM男さんと結婚することができないということになります。
     ではB子さんとW郎さんとの間に婚姻が有効に成立しているのでしょうか。
    民法742条1号は「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」には婚姻は無効であると規定しています。設例の場合、B子さんにはW郎さんと婚姻をする意思はないので、「当事者間に婚姻をする意思がないとき」にあたります(なお、婚姻の意思の内容については、形式的意思で足りるのか、それとも実質的意思まで必要なのかという争いはありますが、設例のB子さんには形式的意思すらないので、ここでは問題となりません。)。したがって、B子さんとW郎さんとの間の婚姻は無効であると考えられます。
     もっとも、戸籍上はB子さんとW男さんとの間に婚姻が成立しているので、B子さんがM男さんと婚姻するためには現在の戸籍を訂正しなければなりません。そこでB子さんとしては、婚姻無効の訴えを提起してW男さんとの婚姻が無効であるとの判決を得、その判決謄本を添付して戸籍の訂正を申請する(戸籍法116条1項)ことが必要となります。その上でM男さんとの婚姻届を提出すれば、B子さんはM男さんと結婚することができるでしょう。
  • Q2: A子さんはM男さんと婚約し、結納金を100万円もらいました。次の場合、お金の返還はどうなりますか。
     @A子さんに以前から付き合っている同僚がいて、婚約後も関係が続いて いることが判明したため、結婚を取りやめることになりました。
     AM男さんが重度のアルコール依存症であることが判明したため、結婚を取りやめることになりました。
     B結婚式を挙げて2ヶ月間一緒に生活したが(入籍はまだ)、性格の不一 致から結婚を取りやめることになりました。
  • A: 結納について、民法上規定はありませんが、婚約の成立を証明し、婚姻が成立したときには当事者やその親族間の情誼を厚くすることを目的とした贈与だと考えられています。そのため、婚姻に至らなかった場合には、結納の目的が達成されないので原則として結納金を返さなければなりませんが、婚約が破談になった原因が結納を送った側にある場合には、その返還を請求することができないとされています。
     @の場合、婚約が破談になった原因は婚約後も同僚と付き合っていたA子さんの側にありますから、結納金の100万円を返還しなければなりません。一方、Aの場合、婚約が破談になった原因は重度のアルコール依存症だったM男さんの側にあるでしょうから、M男さんから結納金の返還を求めることはできないことになります。
     それでは、Bのように、内縁関係にまで入ったが法律上の婚姻に至らなかったような場合にも、結納金を返さなければならないのでしょうか。
     この点については、内縁関係にまで入っていれば、一般に、法律上の婚姻の成立にまで至らなくても贈与の目的は達せられたとして結納の返還請求が否定される場合もあるでしょう。しかし、どの程度の内縁関係があれば贈与の目的が達せられたといえるかは個別の事情によって判断せざるを得ません。そこでBの場合を考えると、結婚式を挙げて同居していたとはいえ、同居期間が2ヶ月と短いことからすると2人の間の内縁関係はそれほど強いものとはいえず、未だ贈与の目的が達せられたとはいえないでしょう。また破談の原因は双方にありますから、A子さんは結納金を返還しなければならないことになると考えられます。

【離婚に関する問題】
  • Q: 次の場合、離婚は認められるでしょうか。
     @「夫の女性関係にはたびたび泣かされてきましたが、子どものために辛抱してきました。子どももやっと独立しましたので、私も自立して自分のために生きたいと思います。夫が反対しても離婚できるでしょうか?」
     A「嫉妬深い夫は私の勤めの帰りが遅れると責め立てて、言い訳すればすぐ暴力を振るいます。仕事か夫かの選択を迫られています。離婚することができますか?」
     B「夫の両親は、私の家事・育児のやり方にいちいち干渉し、逆らうとすぐ出て行けといいます。ただ傍観するだけでかばってくれぬ夫に愛想がつきました。離婚が認められるでしょうか?」
     C「私は夫の野性的な男らしさに惹かれて結婚したのですが、最近はその野蛮で下品な行動が耐えられなくなり実家に帰りました。離婚できないものでしょうか?」
     D「最近、夫に愛人がいることがわかったので詰問すると、夫は帰宅しなくなりました。そして今度は愛人との間に子どもができたから離婚してくれと言ってきました。こんな勝手なことが許されるのでしょうか?」
  • A: 夫婦が離婚をする場合、現実にはその約90%が、夫婦の協議による協議離婚(民法763条)です。
      しかし、一方の配偶者が離婚に同意しない場合には、民法770条が裁判上の離婚(裁判離婚)を認めています。裁判離婚の場合には、調停前置主義(家事審判法18条1項)が採られており、まず家庭裁判所に調停の申立てをしなければなりません。夫婦が合意して、調停で離婚が成立すること(調停離婚)もありますが、不調に終わった場合に、裁判に移ることになります。
      では、裁判になった場合、設例のケースはどう判断されるでしょうか。
      裁判離婚が認められる場合については、民法770条1項の1号ないし5号が規定しています。@のように、夫が浮気をしている場合は、その程度にもよりますが、770条1項1号の「配偶者に不貞な行為があったとき」に当たり得ますから、原則として離婚が認められるでしょう。また、Aのように配偶者に暴行し、精神的に虐待を加えている場合には、770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するでしょうから、この場合にも原則として離婚が認められます。
      同じくBやCの場合にも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかが問題となります。Bのような夫の両親との不和自体がそれに当たると認められる可能性は低いと思われますが、夫がその状況を放置していることが「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる場合もあると考えます。一方、Cのような性格の不一致については、(程度の差こそあれ)どの夫婦にもあるものですから、双方の努力によっては解消できない程度のものでなければ、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に当たるということはできないでしょう。ちなみに海外には「結婚前は両眼を開けて見よ、結婚後は片眼を閉じて見よ。」ということわざがあるようです。
      Dの場合には、離婚の原因を作った夫の側が離婚を請求していますが、このような請求は認められるのでしょうか。
      このような離婚の原因を作った有責配偶者からの離婚請求については、原則として認められません。しかし、夫婦の別居が相当の長期間に及び、かつ夫婦の間に未成熟な子どもが存在しない場合で、離婚を請求された配偶者が離婚によって過酷な状況に置かれるなど著しく社会正義に反するような特段の事情が認められないときには、例外的に認められる場合があります(最高裁昭和62年9月2日判決)。
      Dの場合、夫婦間に未成熟の子がいるかどうかは明らかではありませんが、別居が始まったのは最近のようですので、少なくとも現時点で離婚が認められることはないでしょう。

【親権その他の問題】

  • Q1: 次の場合、R太さんは長女の親権をとれるでしょうか。
    「30歳になる妻は職場の同僚で20歳の部下と関係を持ち、家を出て一緒に暮らし始めました。そのため、この度離婚をすることになりましたが、妻は家に置いていった1歳半の長女の親権を主張して譲らないのです。」
  • A: 未成年の子どもについては、婚姻中はその両親が親権者ですが、離婚後はその一方のみが親権者となります。
      協議離婚の場合には、両親が協議してどちらが親権者になるかを決めることになります(民法819条1項)。そして、民法765条1項の規定により、どちらが親権者となるかを記載しなければ、離婚届は受理されません。この協議がまとまらないときや協議ができないときは、父又は母の請求によって、家庭裁判所が定めることになります(民法819条5項)。
      また、裁判離婚の場合には、裁判所が親権者を定めることとされています(民法819条3項)。
      では、裁判所はどのような基準で親権者を決めるのでしょうか。この点に関して、民法は「子の利益のために必要がある」(変更に関して819条6項)と規定するのみで、具体的な基準は解釈に委ねられています。
      従来から言われている基準としては、子どもが小さいとき(3歳くらいまで)は母親を優先させるという基準、子どもを現実に養育している親が優先するという基準、この意思を尊重するという基準、兄弟は同一の親の下で監護されるべきであるという基準等があります。また、これら基準の他にも離婚の際の有責性や監護開始の際の態様等を考慮すべきとする考え方もあります。
    しかしながら、必ずしも上記のような要素だけで判断されるわけではなく、最終的にはどちらに養育をさせるのが子どもにとって利益か、という観点から具体的事情を総合的に判断されているようです。
      設例のR太さんの場合も、双方の協議で親権者が決められないときや裁判離婚のときには、裁判所が親権者を決めることになります。その場合裁判所は、子どもが1歳半であること、子どもを現在養育しているのはR太さんであること、離婚の原因を作ったのは妻であること等は踏まえつつ、どちらが親権者となるのが子どもにとって良いのかを、総合的に判断して決めることになります。本件では離婚の原因は圧倒的に妻の側にあるのですが、それと親権の判断は必ずしも一致しないことに留意して下さい。
  • Q2: 次のケースでK次さんは子供に会えるでしょうか。
     「子供の親権者を母である妻と定めて離婚しました。私は父親なのにもう子供に会うことはできないのでしょうか。」
  • A: 離婚後に、親権者とならなかった親が未成年の子どもと面接をする権利を面接交渉権といいます。この面接交渉権について直接認める規定はありませんが、民法766条2項で家庭裁判所が命じることができる「その他監護について相当な処分」として、子どもとの面接が認められることがあります。そこで、K次さんとしては、家事審判法9条1項乙類4号に基づいて家庭裁判所がそのような処分をするように求めることになります。
      ただ、この処分は親の権利としてではなく、あくまでも「子の利益のため必要があると認めるとき」(766条2項)に命ずるものですので、K次さんとの面接が子どもの利益のために必要ではないと家庭裁判所が判断した場合には、そのような処分が認められないことになります。


2.相続

  • Q1: 次のケースでW作さんはV男さんの財産を相続できるでしょうか。
     「私(W作)は兄のV男と2人だけの兄弟で私たちの父母は既に亡くなっています。兄は独身で大学の先生をしており、かなり預金があったようですが、旅先で交通事故に遭い亡くなってしまいました。私が相続人だと思っていたのですが、突然A子さんという女性から連絡があり、兄の子どもを妊娠しており、来月出産予定とのことです。」
  • A: どのような人が相続人となるかについて、民法は@亡くなった人(被相続人)の子どもが相続人となると規定し(887条1項)、子どもがいない場合にはA親や祖父母といった直系尊属(889条1項1号)、それもいない場合にはB兄弟姉妹(889条1項2号)が順に相続人となると規定しています。また、被相続人の配偶者は@からBの人と共に常に相続人となる(890条)とも規定しています。
     V男さんは独身であり、両親は既に亡くなっているので、V男さんに子どもがいなければW作さんがV男さんの遺産のすべてを相続することになります。
     しかし設例では、V男さんの子どもを妊娠しているというA子さんが現れました。A子さんが妊娠している子どもは相続人となるのでしょうか。
     本来、相続人は被相続人が亡くなった時に存在していなければならないとされているため(同時存在の原則)、まだ生まれていない胎児は相続人となることができないはずです。しかし、たまたま被相続人が亡くなった後に生まれたという偶然の事情によって子どもが相続財産による扶養を受けられなくなるのは不合理なため、民法は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」(886条1項)として、同時存在の原則の例外を規定しています。なお、この規定は、死産の場合には適用されません(886条2項)。
     したがって、A子さんが妊娠中の子どもが生きて生まれてくれば、V男さんが亡くなった時には既に生まれていたものとして扱われ、その子が相続人となります。その結果、W作さんは相続人ではなかったことになり、W作さんはV男さんの財産を何も相続できなくなります。
     もっとも上記の結果は、A子さんが妊娠している子どもが法律上V男さんの子どもであることが前提です。したがって、V男さんが胎児のうちに認知をしている(783条)か、あるいは認知の訴え(787条)によって、V男さんとA子さんが妊娠している子どもとの間に法律上の親子関係が生じていることが必要になります。
  • Q2: 次の場合、X代さんはB男さん名義の預金を相続できるでしょうか。
     「私(X代)はB男さんと20年間一緒に生活しており、夫婦同然の状態ですが、事情があって婚姻届けを出さずにいました。ところが先月、B男さんが大病を患って入院した際、B男さんの両親が家に訪ねてきて『B男に万が一のことがあっても相続人は私たち両親だ。』と言ってきました。20年間に2人で貯めたB男さん名義の預金が1000万円あるのですが、私は相続できないのでしょうか?」
  • A: 民法890条は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる。」としています。しかしながら、法律上の婚姻をしていない内縁の配偶者は、890条の「配偶者」には含まれないと解釈されています。これは、誰が相続人であるかが明らかでなければ、第三者は相続人と安心して相続財産を取引することができないので、相続人の範囲は戸籍によって対外的に明らかにされている必要があるという理由によるものです。
     したがって、X代さんはB男さん名義の預金を相続できないことになります。
     しかしこのような場合でも、X代さんはB男さんから遺言によって財産の全部又は一部について遺贈(贈与)を受けることができます(964条本文)。ただし、遺贈(贈与)によっても相続財産のうちで相続人の生活保障等のために必ず残さなければならない一定部分(遺留分)を侵害することはできないとされています(964条ただし書)。
    設例のように、相続人がB男さんの直系尊属である両親だけの場合には、1028条1号の規定により、両親の遺留分はB男さんの財産の3分の1ということになります。したがって、X代さんはB男さんからその財産の3分の2までであれはば遺留分を侵害することなく遺贈(贈与)を受けることができ、それによってB男さん名義の預金を相続した場合に近い効果を受けることができます。
  • Q3: 次の場合、相続人は誰になるでしょうか。そしてその割合はどのようになるのでしょうか。
     「私(Y太)は小さいときから子どものいない叔父夫婦に可愛がられ、5歳の時に養子になりました。ところが私が13歳の時、叔父夫婦にC子という子どもが生まれたのです。とたんに叔父夫婦はC子だけを大切にし、私に辛くあたるようになりました。そんな中で叔父が先月心筋梗塞で急死しました。驚いたことにそのお葬式の日になって、叔父が他の女性との間にもうけ、5年前に認知したというD男があらわれて自分も相続人だと言い張るのです。叔父は急死したために遺言などは残していませんでした。」
  • A: まず、Y太さんの叔母さんは、亡くなった叔父さんの配偶者ですので、常に相続人となります(民法890条)。
     また、先に見たとおり、民法887条1項は、被相続人の子どもは相続人となるとしていますが、この場合の「子ども」にはC子さんのような実子だけではなく、Y太さんのような養子やD男さんのような認知によって法的親子関係が生じた非嫡出子も含まれます。
     したがって、Y太さんの叔父さんの相続人は、Y太さんの叔母さん、C子さん、Y太さん、D男さんということになります。
     では、この4人の相続人の間ではどのような割合で相続するのでしょうか。
     設例の場合、Y太さんの叔父さんは遺言を残さずに亡くなっているので、民法900条の規定する法定相続分によることになります。
     まず、設例のように配偶者と子ども達が相続人となる場合について、900条1号は、配偶者と子ども達の相続分をそれぞれ2分の1と規定しています。
     また、子ども達の間での分配については、それぞれ等しい割合とするのが原則です(900条4号本文)が、非嫡出子の相続分については嫡出子の相続分の2分の1とすると規定されています(900条4号ただし書)。
    本件についてみますと、Y太さんの叔母さんは、叔父さんの配偶者ですからその相続分は2分の1ということになります。
     また、子ども達については、養子であるY太さんも民法809条の規定により嫡出子の身分を取得していますので、非嫡出子であるD男さんの相続分は嫡出子であるC子さん、Y太さんの相続分の2分の1ということになります。具体的には
       C子:Y太:D男=2:2:1
    の割合で子ども達の相続分である2分の1を分配することになりますので、
       叔母さん:C子:Y太:D男=5/10:2/10:2/10:1/10
    が、それぞれの相続分ということになります。
  • Q4: 次のケースではZ美さんは父親の借金を払わなければならないでしょうか。
     「私(Z美)は父母と妹E子の4人で暮らしていたのですが、8年前に父が失踪し、行方不明になっていました。それが今年のお正月に東京都新宿区の社会福祉事務所から突然電話があり、父は新宿でホームレスになっていて年末に急死したのだそうです。すぐに東京へ行き、お葬式などをすませました。ところが5月になってサラ金から連絡があり、父は失踪後に3000万円もの借金をしていたことが判ったのです。父名義の資産もなかったので、すぐに相続の放棄の手続きをとったのですが、友人から死亡後3ヶ月を過ぎると放棄ができないはずだと言われ、心配になりました。」
  • A: 相続を放棄すると、その相続については初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。しかし、相続の放棄は相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述することによって行わなければなりません(915条1項、938条)。Z美さん達が、お父さんが亡くなったことを知ったのはお正月のことであり、相続放棄の申述をした5月の時点で既に3ヶ月は経過していることから、その相続放棄は無効とも思われます。
     しかし、3ヶ月以内に相続を放棄しなかったのが、被相続人に(プラスもマイナスも含めて)相続財産が全く存在しないと信じたためであり、そのように信じるについて相当な理由があるときには、3ヶ月の熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常それを認識し得た時から起算すべきとされています(最高裁昭和59年4月27日判決参照)。
     これを設例についてみると、Z美さん達が3ヶ月以内に相続放棄の申述をしていなかったのはお父さんに相続財産が全くないと信じたためでしょうし、また、そう信じたことについても、お父さんが路上生活をしていたことや、失踪した8年前から音信不通であったことなどを考えればやむを得ず、相当な理由があると考えられます。
    したがって、設例における相続の放棄の熟慮期間の起算点は、5月にサラ金の業者からお父さんに3000万円の借金がある旨の連絡があった時点と考えるべきであり、Z美さん達はその後すぐに相続放棄の申述を行っているので、その相続放棄は有効であり、Z美さんはお父さんの借金を支払う義務はないと思われます。



3.契約、借家

【契約に関する問題】
  • Q1: 次の場合、A夫さんはP社から本の代金5000円を取り戻すことはできるのでしょうか。
    「私(A夫)の家に突然、P社から本が代金引換郵便小包で送られてきました。妻が頼んだのだろうと思い、私がその本の代金5000円を払いましたが、後で聞いたら妻も注文した覚えがないそうです。支払ってしまった5000円を取り戻すことはできないでしょうか?」
  • A: このケースでは、A夫さんとP社との間に本の売買契約が成立したといえるのか、という点が問題となります。
     売買のような契約が成立するためには一般に、「申込みと承諾の意思表示が合致すること」が必要だといわれています。申込みとは「承諾があれば契約を成立させる意思表示」のことで、承諾とは「申し込みを受けて契約を成立させる意思表示」のことです。
     P社がA夫さんに本を送り付けてきたことは、「A夫さんが承諾してくれれば、この本を売りますよ」という意思のあらわれとみることができるでしょうから、申込みに当たると思われます。
    しかし、A夫さんにはそもそも「P社から本を買おう」という意思がなかったのですから、5000円を支払ったことをP社の申込みに対する承諾とみることはできないと考えます。
    したがって、A夫さんとP社との間には本の売買契約は成立していないといえます。そうである以上、P社が本の代金5000円を受け取る理由はないので、A夫さんはその取り戻しを請求することができます(民法703条参照)。
  • Q2: 次の場合、B江さんとQ旅館との間で、宿泊に関する契約が成立していたといえるのでしょうか。
    「家族そろって温泉へ泊まりに行くことにし、Q旅館に予約の電話をしました。ところが宿に到着すると、予約したはずの部屋には別のお客さんが入っていて、私(B江)達は泊まれなくなってしまったのです。電話では契約はできないのでしょうか?」
  • A: 民法上、契約の締結は必ず対面してしなければならないという規定はなく、契約の締結の手段は、郵便であっても電子メールであっても、このケースのように電話であっても構いません。
     したがって、このケースでB江さんがQ旅館に対して宿泊の予約の電話をしたことは契約の申込みに当たり、Q旅館がその予約を受けた段階で宿泊に関する契約が成立していたといえます。
    それにもかかわらず、B江さん達が予約した部屋に泊まれなかったことは債務不履行に当たりますから、それによって被った損害があれば、その賠償をQ旅館に対して請求することも考えられます(民法415条)。
  • Q3: 次の場合、C郎さんはマンションRを購入しなければならないのでしょうか。
    「新婚の夫婦である私(C郎)達はマンションの購入を考えていたので、先日、売りに出されていたマンションRを見に行きました。私達はそのマンションが気に入ったため、その場で不動産会社の担当者に買いたいと告げ、担当者も了解していたのですが、翌日別のマンションSを見たらそちらの方が気に入り、マンションRを買うのはやめることにしました。ところが担当者は、既に契約は成立しているから、今さら撤回できないと言うのです。」
  • A: これまで述べたように、売買契約は一般に口頭の合意でも成立するものですが、不動産の売買のような高額で重要な財産の取引についても買いたいと伝えただけで契約が成立すると考えるのは、実際に不動産取引を行う人達の意識とあまりにかけ離れています。
     そこで、不動産のような重要な財産の売買契約については、単なる合意だけで契約の成立を認めるのは妥当ではなく、契約書を作成することや手付金を支払うことなどを通して、当事者の売買契約を結ぶという意思が確定的なものとなった時点で契約の成立を認めるべきであろうと考えます。
     C郎さんは、担当者に対して、ただマンションRを買いたいと伝えたにとどまるわけですから、この時点で売買契約を結ぶという意思が確定的なものになっていたとはいえないでしょう。
     したがってこのケースでは売買契約は成立しておらず、C郎さんはマンションRを購入しなくてもよい、ということになります。
  • Q4: 次の場合、D香さんは2万円をT建設会社に支払わなければならないでしょうか。
     「コンビニの駐車場が一杯だったので、隣のT建設会社の駐車場に車を止めました。駐車してから車に戻るまでは、ほんの3〜4分の時間だったのです。ところが会社の人が出てきて、駐車場の入り口に『無断で駐車した場合は金2万円申し受ける』と張り紙があったのだから、その通り2万円支払えと言われました。」
  • A: このケースでも問題となるのは、D香さんとT建設会社との間で、駐車をした対価として2万円を支払うというような契約が成立しているか、という点です。
     この点、T建設会社の駐車場の入り口の「無断で駐車した場合は金2万円を申し受ける」という張り紙を、申込みとみることもできるかと思われます。
     しかし、D香さんには、そのような契約を結ぶ意思はなかったようですから、T建設会社の駐車場に車を止めたことをもって、そのような契約を成立させる承諾の意思表示があったとみることはできないと考えます。
     したがって、D香さんとT建設会社との間で、駐車をした対価として2万円を支払うというような契約は成立しておらず、D香さんには2万円を支払う義務はありません。
     ただし、D香さんが無断で駐車したことも事実ですから、その分の駐車料金相当額度は、不法行為による損害賠償(民法709条)などとしてT建設会社に支払わなければならないと考えられます。

【借家に関する問題】

  • Q1: 次の場合、E志さんはアパートを立ち退かなければならないでしょうか。
     「アパートの2ヶ月分の家賃を滞納したところ、大家さんからすぐに立ち退くように要求されました。その後すぐに親に仕送りしてもらい、大家さんに支払ったのですが、大家さんはそれでもだめだと言うのです。」
  • A: アパートの賃貸借契約において、家賃を支払うことは借り主の義務ですから(民法601条)、E志さんのように家賃を滞納することは債務の不履行に当たります。
     一般に契約上の債務の不履行があった場合、民法541条は、相当の期間を定めて債務者に債務を履行するように催告をし、それでも履行がないときには契約を解除できるとしています。しかし、ちょっとした債務の不履行でも賃貸借契約を解除することを認めるのは、それによって生活の基盤を失う借り主にとって非常に酷なことです。
    そこで、賃貸借契約の解除が認められるのは、民法541条の要件を充たすことに加えて、継続的契約である賃貸借契約の基礎となっている、大家さんと借り主の間の「信頼関係」が破壊されている場合に限られるとされています(信頼関係破壊の法理)。
     賃料を滞納した期間が半年と長いような場合であれば信頼関係は破壊されたと判断されるでしょうが、E志さんが家賃を滞納した期間が2ヶ月と比較的短く、立退きを迫られてすぐに滞納していた家賃を支払ったことなども踏まえると、このケースではまだ信頼関係が破壊されたとまではいえないと思われます。
    したがって、大家さんは賃貸借契約を解除することができませんので、E志さんがアパートを立ち退く必要はありません。
  • Q2: 次の場合、G弘さんに敷金は戻ってくるでしょうか。
     「私(G弘)は、1年間住んだ賃貸アパートから、先日引っ越しました。きれいに掃除をしてから立ち退いたのですが、先日大家さんから連絡があり、『部屋の修繕費として敷金と同額のお金がかかったので、敷金は返還できない』と言われました。私は普通に生活をしてきただけで、部屋を壊したりはしていないのに、15万円もの敷金が返ってこないのは納得できません。何とかなりませんか?(なお契約上、部屋の通常の使用で生じるような損耗について、私の負担とするような特約はありませんでした。)」
  • A: 敷金とは、賃貸借契約に際して、借り主が負う債務について担保する目的で借り主が大家さんに対して交付する金銭で、賃貸借契約の終了時に借り主が負っている債務があれば、それを差し引いて大家さんが返還する性質のものをいうとされています。
     そこで、賃貸借終了時にG弘さんが、敷金から差し引かれるような賃貸借契約上生じた何らかの債務を負っていたかが問題となります。
     この点、借り主は賃貸借契約の終了の際に、借りていた部屋を「原状」(借り時の状態)に回復して大家さんに返還する義務(原状回復義務、民法616条、598条)を負うとされています。これだけをみれば、G弘さんのような借り主は「原状」回復にかかる費用を負担しなければならず、大家さんはその費用を敷金返還額から差し引くことができるようにも思われます。
     しかし、賃貸借契約は部屋を使用させることを目的とする契約ですから、それによって一定の汚れや損耗が生じることは予想されたはずで、またそれを見越して賃料が設定されてもいるはずです。したがって、社会通念上通常の使用によっても生じる損耗について、原則として賃借人に原状回復義務を負わせることはできないとされています(最高裁平成17年12月16日判決参照)。
     このケースでは、G弘さんが借りていた部屋に生じた損耗は社会通念上通常の使用によって生じ得る範囲内のものといえ、G弘さんは原状回復義務を負うことはなく、それを理由として大家さんが敷金返還を拒むことはできません。
    したがって、G弘さんは敷金の返還を請求することができます。


4.クレジット

  • Q1: 次の場合、H久さんはクレジット会社から請求されたら、自動車の代金を支払わなくてはならないのでしょうか。
     「私(H久)は36歳の会社員です。中古車販売店を経営している親友がいますが、先日彼から『今月売り上げが少なくて苦しい。お前の名義を貸してくれないか。もちろん契約書への署名は代わりに俺がしておく。クレジット会社から電話がきたら『車を買った』と答えるだけでいいから。』と頼まれました。親友は『お前には絶対迷惑はかけない』と言っています。後からクレジット会社から請求されるようなことはないでしょうか?」
  • A: 「クレジット契約」といわれるものにはいろいろな形態の契約がありますが、商品の売買契約において売主と買主の間にクレジット会社が関わるものがその典型です。その仕組みは、売主はクレジット会社から商品代金の立替払いを受け、後でクレジット会社は買主から手数料と共に立替金の支払いを受けるというものです。(そのため、「クレジット契約」を「立替払契約」と言い換えることもできるでしょう。)
     では、このケースでH久さんは、クレジット会社からの請求に応じて自動車代金の支払いをしなければならないのでしょうか。ここでは、自動車の代金についてのクレジット契約が成立しているのは、誰と誰との間においてなのかという点が問題となります。
     この点、クレジット契約も契約ですから、当事者双方の意思表示の合致によって成立するもの(第3回〔契約に関する問題〕1参照)なので、契約当事者が誰なのかという点についても、お互いがどのような意思だったのかによります。
    まず、クレジット会社としては、H久さんの友人の中古車販売店から、H久さんの名前の書かれた契約書が提出されたわけですから、H久さんをクレジット契約の相手方とする意思だったとみることができます。
     一方、H久さんの方は、「お前には絶対迷惑はかけない」という友人の言葉を信じて名前を貸しただけで、自ら立替金の支払いをする意思はないので、クレジット契約の当事者となる意思はなかった、といえるようにも思われます。しかし、「名義を貸す」ということ承諾する場合、名義を借りた人物が立替金の支払いを怠れば、自分が契約の当事者としてその責任を負うことになるということを認識しているはずです。(このような認識が一般的だからこそ、H久さんの友人は「お前には絶対迷惑はかけない」と述べているのではないでしょうか。)そうだとすると、本件で名義貸しを行ったH久さんも契約の当事者としての責任を負うことを認識しており、クレジット契約の当事者となる意思があったとみることができます。
     したがって、自動車の代金についてのクレジット契約は成立しているのはクレジット会社とH久さんとの間ですから、H久さんは自動車の代金を支払わなくてはならないことになります。なお、自動車の売買契約が実際には行われていない架空のものであった点は問題となり得ますが、H久さんは友人が資金繰りのためにクレジット契約を悪用するのに加担したものといえますから、売買契約が無効だったという主張は信義則(民法1条2項)に反するなどの理由から認められないものと考えます。
  • Q2: 次の場合、I子さんはクレジット会社から請求されたら、ダイヤのペンダントの代金を支払わなくてはならないのでしょうか。
     「私(I子)は22歳のOLです。友達がみんな宝石を持っているので、先週、J宝石店から50万円のダイヤのペンダントを買いました。代金は5年のクレジットで支払うことにしたのですが、昨日、突然その宝石店が倒産してしまいました。そのペンダントはチェーンの細工が必要だったのでまだ私の手元には来ていなかったのですが、J宝石店の商品や仕掛品は全部卸業者が引き上げてしまったそうです。クレジット会社から請求が来たら支払わなければならないのでしょうか?」
  • A: 売買契約では、売主が商品を引き渡すまでは、代金を支払わなくてよいということになっていますから(民法533条参照)、I子さんはJ宝石店との関係では、ダイヤのペンダントの代金の支払いを拒否することができます。
     もっとも、クレジット会社に対しても商品の引渡しがないことを理由としてダイヤのペンダントの代金の支払いを拒否することはできるかというとそれはまた別問題です。売買契約とクレジット契約とは、形式的にはそれぞれ別個の契約なので、売買契約について買主が売主に対して主張できたことも、クレジット会社に対しては本来主張できないはずです。
    しかし、それでは、商品の引渡しを受けていないのに代金の支払いだけを求められることになり、買主にとっては非常に酷な結果となります。
     そこで、クレジット契約について規定する割賦販売法30条の4は、そのような買主(消費者)を保護するために、@クレジット会社が関わる形式のクレジット契約で、A政令で指定された商品やサービスなどについて、B売主に対して支払いを拒める理由がある場合には、クレジット会社に対しても立替金の支払いを拒めると規定しています(いわゆる「抗弁の対抗」)。
     これを本件についてみますと、@問題となっているのが、クレジット会社が関わる形式のクレジット契約で、また、Aダイヤなどの宝石は、政令で指定された商品に当たっていますし、B先に述べたとおり商品の引渡しがないことを理由として、J宝石店に対して代金の支払いを拒むことができますから、I子さんはクレジット会社に対しても、ダイヤのペンダントの代金の支払いを拒むことができます。
  • Q3: 次の場合、K次郎さんは、何者かにキャッシングで借りられてしまった20万円を支払わなくてはならないのでしょうか。
     「私(K次郎)は昨夜飲み過ぎてしまい、今朝になって財布を落としたことに気付きました。財布の中に現金は3000円だけだったのですが、その他にクレジットカードと運転免許証が入っていたのです。慌ててカード会社に連絡したところ、今朝一番で20万円をキャッシングで借りられていました。暗証番号を生年月日にしていたのですが、運転免許証が一緒だったため、拾った人物にも分かってしまったみたいです。クレジット会社はその点に過失があるので保険も適用されず、20万円は支払ってもらうと言うので困っています。本当に20万円を支払わなければならないのでしょうか?」
  • A: このケースのように、紛失したクレジットカードが不正使用された場合、カードの持ち主が責任を負うことになるのかどうかについては、法律上規定はありません。そこで、クレジット会社が契約内容を定めている「会員規約」にどのような規定が置かれているかが問題となります。
     一般に、クレジット会社が定めている「会員規約」では、「カードを紛失し、他人に不正使用された場合、その支払いの責任はカードの持ち主が負う」とする一方で、「不正使用によってカードの持ち主が負う損害については、カード盗難保険等の補填制度で補填する」と規定されていることが多いようです。(つまり、不正使用をされたとしても、その損害が補填されれば、カードの持ち主はその分の支払いを免れたのと同じことになります。)
     しかし、同時に、多くの「会員規約」は、「カードの持ち主の故意又は重過失によって不正使用された場合」を、損害の補填の対象から除外しています。
     では、K次郎さんには「重過失」があったといえるのでしょうか。
     この点については判断の分かれるところです。クレジットカードの暗証番号を、生年月日のような第三者に知られやすい番号にしておいた事実については、過失があったと判断される方向に働くと思われますが、一方で、クレジットカードと免許証を一緒の財布に入れていたこと自体は特に不注意といえる事情ではなく、過失を認める方向には働かないものと思われます。K次郎さんに「重過失」があったか否かは、この他、紛失した当時の状況なども踏まえた上で判断されることになりますので、場合によってはK次郎さんが20万円を支払わなければならないこともあり得ます。
  • Q4: 次の場合、L伸さんは契約を解除することができるでしょうか。
     「先月から『このビデオ講座を使って勉強すると、国家資格が自動的に取れる』などとM法律学院からしつこく電話で勧誘されました。気の弱い私(L伸)は断りきれず、7日前に行政書士の講座の申込書を送り、代金の20万円も払ってしまいました。あとから友人に聞いたところ、自動的に取れるなどということはないと分かったので、今から契約を取り消したいのですが、それは可能でしょうか?」
  • A: 訪問販売や電話での勧誘販売は、自宅にいる消費者に対して、いわば不意打ち的に購入を求める販売方法であり、購入を求められた消費者としては十分に熟慮する機会を与えられないまま、契約を締結させられてしまうおそれがあります。そこで、特定商取引に関する法律(特定商取引法)は、そのような不意打ち的な取引から消費者を保護するために、所定の期間内であれば何らの理由がなくとも契約の解除をすることを認める「クーリング・オフ」の制度を定めています。
     本件のような電話勧誘による販売の場合には、@政令で指定された商品の販売やサービスの提供であることと、Aクーリング・オフができることなどを記載した法定の契約書面を、販売業者が交付した日から8日以内であることの2つの要件を充たしていれば、クーリング・オフをすることが認められます(特定商取引法24条1項)。
    本件では、@L伸さんが申し込んだ行政書士の資格取得講座のようなサービスも、政令で指定されたサービスに当たりますし、また、AL伸さんが講座の申込書を送った日から数えても8日以内ですので(M法律学院が法定の契約書面をL伸さんに交付したか否かにかかわらず)、L伸さんはクーリング・オフをすることができます。実際にクーリング・オフをする場合には、特に形式はありませんが書面で行う必要があり、書面を発したときにその効力が生じます(特定商取引法24条2項)。期間内にクーリング・オフをしたかどうかを明確にするため、内容証明郵便、あるいは少なくとも簡易書留扱いにしておくべきでしょう。
     また、本件でM法律学院は「このビデオ講座を使って勉強すると、国家資格が自動的に取れる」などと、事実とは異なることを言ってL伸さんを勧誘しています。消費者の保護を目的とする消費者契約法の4条1項1号は、事業者が「重要な事項」につき「事実と異なることを告げること」により、消費者が誤認した場合には、消費者は契約を取り消すことができるとしています。したがって、L伸さんがM法律学院の言葉によって、ビデオ講座を使えば自動的に行政書士の資格を取れると誤認したとすれば、これによっても契約を取り消すことができるものと考えます。この消費者契約法上の取り消しは、クーリング・オフの可能な期間が過ぎてしまった場合でも可能なので覚えておくとよいでしょう。
     クーリング・オフや消費者契約法上の取り消しをした場合、契約は最初から無かったことになりますので、L伸さんはM法律学院に対して代金の20万円の返還を求めることができます。

5.お金の貸借を中心に

  • Q1: 次の場合、N人さんは友人からお金を返してもらうことができるでしょうか。
     「私は21歳の大学生です。友達のO康から『家賃を2ヶ月分滞納してしまったので8万円貸してくれ』と言われ、貯金を下ろして貸してあげました。O康は『居酒屋でアルバイトをしているから、バイト代の入る月末には必ず返す』とも言っていたので、信用して借用証書も作らなかったのです。ところが月末になった途端に、『あのお金はカンパしてもらったので返す必要がない』などと言って取り合ってくれません。借用証書がないとだめなのでしょうか。」
  • A: お金の貸し借りのような消費貸借契約について定めた民法587条では、借用証書を作ることは契約の成立要件になっていません。N人さんとO康さんの間で借用証書を作っていなかったとしても、月末には返済する約束をした上で8万円の受け渡しが行われた以上、契約は成立します。したがって、N人さんは、O康さんに対してお金を返すように請求することができます。
     ただ、裁判を起こして支払いを求めるような場合には、借用証書がないので、別の証拠(例えば、N人さんとO康さんのお金の受け渡しを見ていた人の証言や、受け渡しの準備として8万円を下ろしたN人さんの通帳の写しなど)によって、実際にお金の貸し借りがあったことを証明しなければなりません。このような証明は借用証書を提出するより大変ですから、お金の貸し借りの際には借用証書を作っておいたほうがよいでしょう。
  • Q2: 次のような状況で、P士さんのお父さんが保証人になった場合、P士さんのお父さんがお金を支払わなければならなくなることはないのでしょうか。
     「私(P士)の父は50歳で工務店を経営しています。父の友人のQ兵衛さんという大工さんが資金繰りに困り、父に対し、@直接100万円貸すか、A信用金庫からQ兵衛さんが300万円借り入れる際の連帯保証人になるか、どちらかをお願いしたいと頼んできました。父は、Q兵衛さんが絶対に迷惑をかけないと言っているし、保証人であれば今はお金を準備する必要もないので保証してあげようかと言っています。大丈夫でしょうか。」
  • A: 民法446条1項は「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行の責任を負う。」と規定しています。そうすると、P士さんのお父さんが保証人になった場合、Q兵衛さんが信用金庫からの借入金の返済を怠れば、P士さんのお父さんが代わってその返済をしなければならなくなります。
     このとき、Q兵衛さんが絶対に迷惑はかけないと言っていたことはどうなるのか、と思われるかもしれません。しかし、保証人になるという契約の当事者は、保証人(P士さんのお父さん)と保証される債権の債権者(信用金庫)なので、主たる債務者であるQ兵衛さんが何を言っていたかは契約の成否には影響しません。もっとも、Q兵衛さんの言っていたことが詐欺に当たり、そのことを信用金庫も知っていたというような場合には、P士さんのお父さんが保証契約を取り消すこともできますが(民法96条2項)、「絶対に迷惑をかけない」と言っていた程度であれば詐欺に当たることはないでしょう。
     さらに、P士さんのお父さんは「連帯」保証人ですから、信用金庫から請求を受ければ直ちに支払わなくてはなりません(民法454条参照)。なお、代わって支払った場合には、P士さんのお父さんはQ兵衛さんに対してその分を請求することができます(民法459条1項)が、Q兵衛さんにはお金がないでしょうから支払いを受けるのは実際上困難です。したがって、Q兵衛さんに300万円を贈与するくらいの覚悟がなければ、連帯保証人になるべきではありません。
  • Q3: 次の場合、R子さんとS実さんは債務の支払いをしなくてもよいことになるのでしょうか?
     「私(R子)はデパートのブティックに勤めている23歳のOLですが、華やかなお客様や先輩達につられてカードで洋服や宝飾品を買いまくってしまったのです。クレジット会社への支払いは、私の15万円という給料ではとても間に合わず、支払いのためにサラ金から借り入れするようになりました。現在クレジット会社5社に200万、サラ金6社に200万で合計400万円の債務があります。利息の支払いが今月はできないので、サラ金の取り立てが心配です。破産すれば返さなくてもいいと聞いたので、破産したいのですが。
    それから、サラ金2社分の60万円について先輩のS実さんに連帯保証してもらっているのですが、私が破産すればS実さんの責任も無くなるのですよね。」
  • A: 債務整理のための手続きとしては、破産のほか、個人再生手続や特定調停、任意整理などがあります。債務整理に当たってどの手続きをとるかは、利息制限法所定の利率(元本100万円以上の場合は年利15%)で計算した債務総額を確定し、債務者となっている人の返済可能額や返済意思などを見極めた上で判断することになります。
     R子さんの場合は、月々の収入に対して負っている債務の額が大きいので、特に手放したくない不動産を持っているなどの事情がなければ破産の手続きをとるのがよいように思われます。
     破産の手続きは、破産手続開始の申立て(破産法15条1項)に対し、裁判所が破産手続開始の決定(破産法30条1項)をするという順序で進みます。そして、破産した人の財産が債務等の支払いに足りないときには破産手続廃止の決定がされ、破産の手続きが終了します。R子さんの場合もこのようにして破産の手続きが終了するものと考えられます。
     しかし、破産の手続きが終了しただけでは債務の支払いを免れることはできません。債務の支払いを免れるためには、免責許可の決定(破産法252条1項)を受ける必要があります。
     裁判所は、破産法252条1項に規定された免責不許可事由に当たらなければ免責許可の決定をすることになりますが、R子さんの場合は同条4号が規定する不許可事由である「浪費・・・によって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」に該当し、同条項による免責が受けられない可能性があります。
     ただ、仮にR子さんが4号の不許可事由に該当するとしても、「裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」(破産法252条2項)とされていますので、この免責の許可が認められれば、R子さんは債務の支払いを免れることができます。
     では、R子さんが免責の許可を受けた場合、S実さんも債務の支払いを免れることができるのでしょうか。
     この点について、破産法253条2項は、免責許可の決定は保証人には影響を及ぼさないと規定しています。したがって、R子さんに免責許可が出されても、連帯保証人であるS実さんは債務の支払いを免れることはできません。

6.セクシャル・ハラスメントを中心に

  • Q1: 次の場合、T夏さんはどのように対処をすればいいでしょうか。
     「私(T夏)のゼミのU先生はカラオケが好きで、コンパの度に二次会はカラオケに行きます。そして、決まって女子学生とデュエットをしたがるのです。昨夜も私が指名されて一緒に唄わされたのですが、先生は肩に手を回すばかりか・・・。とても不快なのですが、就職の斡旋のことなどを考えると先生のご機嫌を損ねたくありません。どうすればいいでしょうか?」
  • A: U先生がT夏さんに行っていることは、セクシュアル・ハラスメントに当たるといえます(大学及び大学院で行われるセクハラを「キャンパス・セクハラ」と呼ぶこともあります。)。
    セクハラとは、「相手の意に反する性的言動」と定義されます。したがって、セクハラに当たるかどうかの判断においては「相手の意に反する」かどうかという点が重要です。T夏さんは、U先生のカラオケに行った際の行為を不快に感じており、これらの行為は一般の人の感覚においても「相手の意に反する」ものと感じられるでしょうから、セクハラに当たると考えられるのです。
    このようなU先生の行為は、程度にもよりますが不法行為(民法709条)に当たるとされる場合があります。それに加えて、U先生の使用者である大学が、使用者責任(民法715条)や在学契約に基づいてT夏さんに対して負っている「研究教育環境を整える義務」の不履行の責任(民法415条参照)を問われることもあります。これらの場合、T夏さんが、U先生・大学に損害賠償を請求することができます。
    ただ、T夏さんとしては賠償を受けることが目的ではないようなので、まずは大学内の相談窓口で相談をすることが考えられます。キャンパス・セクハラが相次いで問題となったことを受け、各大学は大学内に相談窓口を設けるようになりました。T夏さんとしては、まずは大学内の相談窓口に相談し、U先生への警告を行う等の対応を求めてはいかがかと思います。
  • Q2: 次の場合、V秀さんはどのように対処をすればよいでしょうか。
     「僕(V秀)は21歳の男子学生ですが、先週からW広告会社でアルバイトを始めました。配属された課の主任はXさんという35歳の男性で、とても親切なのですが、パソコンを指導すると言って僕の後ろに座り、必要もないのにマウスの上から手を重ねてくるのです。外出するにもいつも僕を連れて行きたがります。それだけではなく、何度も何度も、一緒にサウナへ行き生ビールを飲もうと誘われているのです。どうすればいいのでしょうか?」
  • A: セクハラとは、「相手の意に反する性的言動」のことですから、同性間の行為であってもセクハラに当たる場合があります。
     V秀さんがXさんから受けている行為(必要なく身体に接触することや、執拗に私的な交際を迫ることなど)はV秀さんが望まないものですから、「相手の意に反する性的言動」としてのセクハラに当たり得るものです。
    この場合にも、Xさんの行為が不法行為に当たる可能性がありますし、W広告会社が使用者責任や、V秀さんに対して負っている「働きやすい良好な職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」の不履行の責任を問われる可能性もあります。
     そのため、V秀さんの採り得る対処方法として、訴訟を提起し損害賠償を求めることも考えられますが、その前に直接、Xさんに抗議をすることや、社内あるいは行政機関の相談窓口に相談することなどの手段も考えられます。どの手段を選択するかは難しい問題ですが、Xさんの行為の程度などを踏まえて判断することになるでしょう。
  • Q3: 次のそれぞれの場合に、セクハラに当たるなどの問題はないのでしょうか。
     @「29歳のOLです。経理課長は何かというと私が結婚していないことを話題にし、『彼氏はどうしたんだ』とか『男に縁がないのか』などと言います。」
     A「開発課は男子社員15人と私を含めた女子社員2人なのですが、エッチな週刊誌がころがっていたり、机の脇にヌードポスターを張られたりするのでとても不愉快です。卑猥な冗談が日常茶飯事で、笑わないと『あいつはカマトトぶっている』などと言われてしまいます。」
     B「営業課の26歳のOLです。得意先の接待のときは決まって私も接待要員として呼ばれ、お酌をしたり、水割りを作らされたりします。私はホステスではないのに・・・」
     C「総務課では、朝の掃除と10時・3時のお茶くみが、女子社員だけの当番制になっています。」
     D「僕は設計課に勤めていますが、仕事で失敗をした際にその理由を説明したところ、上司の女性課長に『言い訳する男らしくない人はいらない』と言われ転勤させられました。」
     E「うちの会社ではセクハラ防止のため、社内恋愛禁止令が出されてしまいました。」
  • A: セクハラの典型例としては、性に関する不快な発言や人目につくところへのヌードポスターの掲示などがあげられ、@やAの事例はこれに当たります。(このように、性的な言動によって職場環境を悪化させるものは、「環境型セクハラ」と分類されることがあります。)
     BやCのように性的な役割を求められることもセクハラに当たるといえます。(これらは固定的な性別役割意識に基づくものとして「ジェンダー・ハラスメント」と分類されることもあります。)
    なお、セクハラにあたるか否かの判断と、損害賠償などの法的責任が認められるか否かの判断は必ずしも一致するものではなく、行為の態様や程度など具体的な事情を踏まえて、法的責任の有無が判断されることになります。
     Dの場合も、男性は言い訳をしてはならないという、性別に関する固定観念に基づく発言であり、セクハラ(ないしはジェンダー・ハラスメント)に当たるように思われます。会社が転勤を命じたことが、言い訳をしたことが男らしくないことを理由とする不当な動機・目的によるものである場合には、命令権の濫用(民法1条3項)として違法なものと判断されることもあるでしょう。
     一方、Eについては、セクハラ防止措置としては行き過ぎで、この命令自体が公序良俗違反として無効(民法90条)となり得ると考えます。
  • Q4: Y代さんは、誰にどのようなことを請求することができるのでしょうか。
     「私(Y代)は、1年毎の契約社員としてZ商社で勤務しています。直属のA課長は何かと面倒を見てくれるいい人だったのですが、去年の忘年会の二次会の後、ホテルのバーに誘われて口説かれました。付き合ってくれればZ商社の正社員として採用してもいいというのです。断り切れずに関係を結び、その後も5、6回ホテルへ行きました。でも、A課長には奥さんがいるし、心から好きなわけではありません。その後は誘いを断っていたら、課長は明らかに私に冷たくなり、あげくの果てに契約の更新もしてもらえないことになってしまいました。」
  • A: Y代さんが誘いを断っているのにもかかわらず、A課長は何度も誘い続け、それを断られると契約の更新をしないという報復を行ったわけですから、A課長の行為は「相手の意に反する性的言動」としてのセクハラに当たります。(このように、性的要求を拒否したことを理由として不利益を与える場合は、「対価型セクハラ」と分類されます。)
     ただ、Y代さんがZ商社と結んでいるような期間の定めのある労働契約は、期間の満了によって終了するので、Y代さんとしてはZ商社に契約の更新を請求できないのが原則です。しかし、期間の定めのある労働契約でも、何度も更新されていたり、他に更新されなかった人がいないなど、契約の更新を期待するのがもっともだといえるような場合には、契約の更新をしないことが解雇と同視されることがあります。その結果、契約の更新をしないことについて、客観的に合理的で、社会通念上も相当な理由が必要とされることになります(労働契約法16条参照)。
     したがって、Y代さんが、契約の更新を期待するのがもっともだといえる場合には、Z商社に対して契約が更新されたものとして従業員の地位にあることの確認を請求することできます。なぜなら、A課長の誘いを断ったことが契約の更新をしない理由として合理的かつ相当であるはずがないからです。
     また、更新を求めるかどうかにかかわらず、A課長に対して不法行為を原因として、Z商社に対して使用者責任・「職場環境配慮義務」の不履行を原因として、それぞれに損害賠償を求めることも考えられます。


7.損害賠償を中心に

  • Q1: 1.次の場合、B太郎さんは、誰に対して損害賠償を請求することができるのでしょうか。
     「私(B太郎)の父が酔って階段から転落し頭を打ったので、私たち家族はすぐに県立C病院に連れて行きました。C病院の勤務医は、まだ医者になったばかりのD医師でしたが、ちょっと診察しただけでCTも撮らず、問題ないからと家に帰されました。ところが深夜になって父の様態が急変し、再び病院に連れて行きましたが、そのまま亡くなったのです。誰に対して損害賠償請求ができますか?」
  • A: B太郎さんとしては、D医師に対して、不法行為(民法709条)に基づいて損害賠償を請求することが考えられます。
     不法行為に基づく損害賠償が認められるためには、損害が「故意又は過失」によって生じたことが必要です。ここでいう「過失」とは、「その状況において損害の発生を防止するために求められる注意を尽くす義務を怠ったこと」を言います。階段から落ちて頭を打った患者に対し、十分な検査を行わずに帰宅させたD医師の行為は、この状況において医師に求められる注意を怠ったものとして、過失があると判断される場合が多いと思われます。
     また、そのような場合、B太郎さんはC病院に対しても損害賠償を請求することができるでしょう。この場合に請求の根拠となるのは、C病院がD医師の使用者であることに基づく使用者責任(民法715条)か、あるいは、D医師の過失によって十分な治療が行われなかったというお父さんとC病院との間の診療契約上の義務の不履行(民法415条)です。
  • Q2: 次の場合、救急車とE次郎さんでは、どちらの過失の方が大きいでしょうか。
     「某月某日の午後2時頃、急病人を乗せた救急車が赤色灯を回し、サイレンを鳴らして国道○号線を南下していました。救急車が病院近くの交差点に差し掛かると信号が赤だったので、救急車は『救急車が通ります。停車して下さい。』とアナウンスをしながら交差点に進入しました。しかし、交差する道路を進んできたE次郎さん運転の車と衝突してしまったのです。E次郎さんによると、E次郎さん側の信号は青だったし、当時ものすごい豪雨だったので救急車のことが判らなかったのだそうです。」
  • A: 道路交通法39条2項前段は「緊急自動車は、法令の規定により停止しなければならない場合においても停止することを要しない。」と規定しています。
     そして、道路交通法40条1項は一般自動車に対して、「交差点またはその付近において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は交差点を避け、かつ、道路の左側に寄って一時停止しなければならない」と規定しています。
     これら道路交通法の規定によれば、E次郎さんの場合も信号が青だからといって交差点に進入せずに、道路の左側に寄って一時停止をする道路交通法上の義務があったといえ、それを怠った過失が認められるでしょう。したがって、E次郎さんの過失の方が大きいと判断される場合が多いと思われます。
     しかし、E次郎さんの言うように、事故当時に大変な豪雨で、救急車のサイレンやアナウンスに気付くことが全く不可能であったような状況であれば、E次郎さんが一時停止をしなかったことをもって大きな過失ということは難しいでしょう。また、救急車にも交差点進入時には他の交通に注意して徐行する義務は課されていますので(道路交通法39条2項後段参照)、豪雨で他車が救急車に気付くことが困難であるにもかかわらず、救急車が十分な徐行をせずに交差点に進入したというような事情もある場合には、例外的に救急車にも相当程度の過失があると判断される余地もあります。
  • Q3: 以下のものは、交通事故による損害賠償の対象になりますか。
     @「スポーツ選手が事故による骨折を治すため、アメリカのスポーツ専門医に治療してもらった場合、その治療費と旅費は請求できますか?」
     A「15才の次男を事故で亡くしたのですが、その葬儀費用は請求できますか?また、我が家にはお墓がなかったので、新たにお墓を建てたのですが、その費用はどうですか?」
     B「脊髄を一部損傷したことにより、長期間車椅子生活を強いられること を苦にして自殺した場合、遺族は死亡による損害の賠償を請求できますか?」
     C「暴力団風の人が運転するベンツに衝突してしまい、後ろの部分を損傷したのですが、部分塗装では色ムラが生じるとして全塗装を要求されています。全塗装の費用を払わなくてはならないのでしょうか?」
     D「母親を事故で亡くしたのですが、母は専業主婦でした。サラリーマンが事故にあった場合のように、生きて働いていれば得られたであろう損害の賠償は請求できないのですか?」
     E「年収400万円の40歳の公務員が事故で死亡した場合、定年の60歳までの20年分である8000万円を遺族が請求できますか?」
     F「事故による腰痛も治り示談が成立したのですが、梅雨時に腰が重く感じたので整骨院でマッサージを受けました。その治療費は請求できますか?」
  • A: ある損害が損害賠償の対象になるかは、加害行為と損害の間に「相当因果関係」があるか否かによって判断されます。加害行為によって生じる損害は無限に広がる可能性がありますが、その全てを加害行為を行った者に負わせるのはかえって公平を損なう場合もあります。そこで賠償の範囲を限定するため、「相当因果関係」という概念が用いられているのです。
     「相当因果関係」という考え方は、非常に大雑把にいえば、加害行為によって通常生じうる損害を賠償の対象とする、というものです。そして通常生じうる損害なのか否かを判断するにあたっては、通常の事情のほか、加害行為をした者が加害行為の時に予見していたか又は予見できた特別な事情を基礎とすると考えられています。
     具体的に見ていきますと、まず@の被害者がスポーツ選手であるという事情は事故の加害者には予見できないはずなので、判断の基礎にはできません。そして、一般人が交通事故にあった場合にアメリカにまで行って治療をすることは通常考えられません。したがって、その治療費等については加害行為との「相当因果関係」がなく、損害賠償の対象にはならないでしょう。
     Aについては、事故によって人が死亡したときに、葬儀を挙げ、墓地に埋葬するということは通常生じうる事態です。したがって、葬儀費用・墓地建立費用ともに、その金額が社会通念上相当と認められる限度では、事故によって通常生じうる損害として「相当因果関係」が認められますので、損害賠償の対象になると考えます。
     Bのように、事故による障害を苦に自殺をしたような場合には、以前は予見できないとして「相当因果関係」を否定されることが多かったのですが、最近では事故と自殺との「相当因果関係」を認めた上で、死亡の結果には被害者の精神的な問題にも原因があるとして賠償額を減額するという判決も多くなってきました。
     一方、損害賠償の目的は、損害を補填することによる原状回復ですから、それを超えて損傷した物の価値を向上させるようなところまでの賠償を認めるものではありません。したがって、Cのように、事故によって損傷した部分以外を含む全塗装の費用は、「相当因果関係」が認められず損害賠償の対象にはなりません。
     また損害賠償は、@〜Cのように事故によって被害者が現実に支出をしたことによる損害(積極損害)だけでなく、被害者が事故に遭わなければ得られたであろう利益を失ったことによる損害(消極損害)についても認められます。
     この点、Dのような専業主婦の方の場合には、行っている家事労働について実際に収入を得ていたわけではありません。しかし、家政婦さんが家事労働を行えばその分の賃金が発生することからも分かるように、家事労働についても金銭的な評価が可能です。したがって、専業主婦の方が亡くなった場合についても、その方が生きて働いていれば得られたであろう利益を失ったことによる損害(逸失利益)の賠償を請求できます。
     この逸失利益の算出にあたっては、まず基礎年収(原則として現実の収入ですが、Dのような専業主婦の場合には女子労働者の平均賃金を参考とします。)に就労可能年数を乗じることが必要になりますが、Eのように公務員などの場合には40歳以降にも昇級する可能性が高いことからそれを考慮する場合もあります。また、逸失利益は一時金で賠償されるのが通常なので中間利息(一時金で受け取ることによって生じる利息分)を控除する必要もあります。したがって、単純に8000万円を遺族が請求できる、とはいえません。
     また、Fの場合のような「示談」は、多くの場合が法的には和解契約(民法695条・696条参照)に当たります。示談の効果はその契約内容によりますが、典型的なものとしては、契約時までに予想された損害について、一方が賠償義務を認め、他方がその賠償請求権の一部を放棄することでお互いが譲歩し、紛争を終了させるものが考えられます。Fの場合の契約内容がそのようなものであったとすれば、梅雨時の腰の違和感というのは契約時に予想されていたと考えられますので、示談後にマッサージを受けた治療費についての損害賠償請求権は放棄されています。したがって、改めて請求することはできません。
  • Q4: 次の場合、G子さんはH子さんに慰謝料を請求することができるのでしょうか?
     「F三郎さんは妻のG子さんとは1年前から別居していて、二人の間では離婚の話が進められています。G子さんは離婚の原因がF三郎さんの浮気にあるとして、F三郎さんに300万円の慰謝料を請求しているのですが、その浮気相手であるH子さんに対しても結婚生活を破壊した張本人だとして、300万円の請求を考えています。しかしH子さんによれば、もともと夫婦の中が冷え切っていて、そんな時にF三郎さんと親しくなったのだから、私には責任が無いと言っています。本当にそうなのでしょうか?」
  • A: 夫婦はお互いに貞操義務を負うとされています。そのため、夫がいわゆる浮気のような不貞行為を行った場合、妻は貞操義務違反を理由に夫に対して慰謝料を請求できるだけでなく、夫に貞操義務違反をさせたことが不法行為(民法709条)に当たるとして、浮気相手に対しても慰謝料の請求ができます。
     したがって、G子さんの言うように、F三郎さんの浮気が原因で結婚生活が破綻したのだとすれば、G子さんからH子さんへの慰謝料の請求は認められることになります。
     しかし、結婚生活が既に破綻している場合には、その結婚生活の平和を法的に保護するために配偶者以外の者との性的関係を不法行為とする必要性はなくなったと考えられるので、配偶者と性的関係を持った相手方への慰謝料の請求は認められないとされています。
     したがって、H子さんの言うように、F三郎さんとG子さんの結婚生活が既に破綻していたとすれば、G子さんからH子さんへの慰謝料の請求は認められないことになります。
     


8.刑事事件を中心に

  • Q1:次の行為は犯罪に当たるでしょうか。当たるとすれば、どのような罪になるのでしょうか。
     @ コンビニの駐輪場に止めてあった自転車を3時間だけ無断で使い、元通りの場所に返した。
     A 夜間に住宅に忍び込んで現金を盗んだ泥棒が、道路を走って逃げる際に夜回りをしていた町内会の役員に捕まりそうになったので、体当たりをして怪我を負わせた。
     B 上司が会社の金を使い込んでいるのを知ったが、上司に「20万円貸してくれれば警察にも会社にも言わないから」と言って、20万円を貸してもらった。
     C 間違って配達された手紙の中にコンサートのチケットが入っていたので、そのまま自分の物にしてコンサートへ行った。
     D 500円のシャンプーを買うときに1000円札を出したが、店員が1万円札と間違って9500円お釣りを渡してきたので、シメシメと受け取って店を出た。
     E 銀行の支店長が親戚の会社に頼まれ、十分な担保が無く貸し倒れになるかもしれないことを承知していたのに、その会社に対して1000万円を融資した。
     F ブティックで試着した服を着たまま、ちょっとトイレに行ってくると偽ってそのまま逃げてしまった。
  • A: @については窃盗罪(刑法235条)になるかが問題です。窃盗罪が成立するためには、「権利者を排除して、他人が所有している財物を自己の所有物のように、その経済的用法に従って利用・処分する意思」(「不法領得の意思」)が必要だと考えられています。
     @では「他人の財物」である自転車を無断で使用したものの、後に返却しています。このような場合でも「不法領得の意思」があるものとして窃盗罪に当たるのかが問題となります。
     この点、無断使用の後には返すつもりであったことから、「権利者を排除して」という意思はなかったとして、「不法領得の意思」が否定されるようにも思われます。しかし、無断使用していた3時間については、真の所有者がコンビニから帰るのに使うことができないというような形で「権利者を排除して」しまうわけですから、やはり「不法領得の意思」が認められ、窃盗罪に当たります(最決昭和55年10月30日)。
     Aでは、窃盗犯が、捕まるのを免れるために夜回り中の町内会の役員の人に怪我を負わせています。このような場合、怪我の程度にもよりますが、窃盗罪+傷害罪(刑法204条)ではなく事後強盗罪(刑法238条)に当たり、強盗として重く処罰される場合も多いです。この事後強盗罪が設けられているのは、窃盗犯が逃走するときには、人に暴行・脅迫を加えることが多いので、強盗として重く処罰することでそのような事態を防ぎ、人身を保護するためです。
     Bでは恐喝罪(刑法249条)に当たるかが問題となります。恐喝罪は暴行や脅迫を用いて財物を交付させることや財産上の利益を得ることによって成立する犯罪ですが、脅迫を用いる場合、その内容が「払わなければ違法な行為をする」と脅すものである場合だけでなく、「払わなければ正当な行為をする」と脅すものである場合(いわゆる「口止め料」を求める場合)も恐喝罪に当たります。
     したがって、Bのように、20万円を貸さなければ使い込みを警察や会社に知らせるという、正当な行為をすると脅して上司から20万円を借りた場合であっても、恐喝罪に当たります。(この場合、20万円が「借りた」ものであることは、恐喝罪の成否には影響がありません。)
     Cでは、間違って配達された手紙の中のチケットを自分の物にしています。このような場合、間違って配達された手紙が他人の占有する(支配が及んでいる)「他人の財物」であれば窃盗罪に当たりますが、やはり間違って配達された手紙は手紙を出した人や郵便配達人の支配を離れていると言わざるを得ません。したがって、それらの者の手紙に対する占有は認められず、Cは落し物などを自分の物にした場合と同じく占有離脱物横領罪(刑法254条)に当たります。
     それではDのように、釣銭が多いことを知りながら、正直に申告しないで受け取ってしまうことは、どのような罪になるのでしょうか。
     物の売買をする者の間では、釣銭が多いような場合には相手に正直に告げるべき信義則(民法1条2項)上の義務があるとされています。それにもかかわらず、Dのように正直に申告しないで多くの釣銭を受け取ってしまうことは、相手をだまして本来受け取れないはずのお金を受け取ったものとして、言うべきことを言わなかった「不作為」による詐欺罪(刑法246条1項)に当たります。
     Eのように、銀行のために事務を行うべき銀行の支店長が、第三者である親戚の会社の利益を図るために融資を行うようなことは、背任罪(刑法247条)に当たりそうです。
     ところで、背任罪というためには、本人である銀行に「財産上の損害を加えた」ことも必要です。Eでは、銀行は融資した1000万円と同額の債権を支店長の親戚の会社に対して有するので、銀行には「財産上の損害」が生じていないようにも思われます。しかし、その債権には十分な担保もないため貸し倒れの危険が大きく、経済的には1000万円の価値はないでしょう。したがって、Eでは銀行に「財産上の損害」が生じたものとして背任罪にあたるといえます。
     Fでは、ちょっとトイレに行ってくると嘘をついているので、詐欺罪に当たるように思われるかもしれません。しかし、詐欺罪は騙すこと自体を罰するのではなく、嘘を言うことによって人を騙し、財物を交付させることを罰するものです。そして、「財物の交付」があったというためには、その物が完全に相手の物になったことまでが必要です。
     Fでは、騙されたブティックの店員は、試着したままトイレに行くことは許していますが、外にそのまま出て行くことまでは許していません。したがって、服が完全に騙した人の物になったわけではなく、「財物の交付」があったとはいえません。その時点では、未だ他人の物です。よって、詐欺罪には当たりません。
     他人の物を、その人の意思に反して自分の物にすることは、窃盗罪に当たります。Fの場合も、店の物である服を、その意思に反して自分の物にしていますから、窃盗罪に当たります。
  • Q2: I刑事は覚醒剤の取り締まりを担当していたが、青少年保護条例違反で現行犯逮捕したJが覚醒剤を使用していると確信した。そこで、裁判所の令状がないにもかかわらず、嫌がるJを押さえつけて体内にカテーテル(導尿管)を挿入して尿を採取し鑑定したところ、覚醒剤が検出された。しかし、裁判においてJの弁護を担当したK弁護士は「違法に収集された証拠による犯罪認定はできず無罪である。」と主張している。このようなK弁護士の主張は認められるでしょうか。
  • A: この事例を考えるに当たっては、令状の有無に関わらず、カテーテルを挿入して尿を採取するという、対象者に対して精神的打撃や身体的傷害を与えかねない捜査手法(「強制採尿」)がそもそも許されるか、という問題があります。
     この点、裸にすることが認められている等の点で、強制採尿と同じような精神的打撃を与えるおそれのある身体検査が適法とされており(刑訴法129条参照)、また医師が相当な方法で行えば、身体を傷付けるおそれも小さいといえます。したがって、強制採尿を行うこと自体は認められています(最決昭和55年10月23日)。
     ただ、強制採尿は、人権侵害のおそれのある捜査手法(強制処分)ですから、これを実施するためには裁判所の発する令状が必要です(刑事訴訟法197条1項ただし書き)。それにもかかわらず、I刑事は令状を取ることなくJに対して強制採尿を行っていますから、強制採尿は違法な捜査であると言わざるをえません。
     では、K弁護士の主張するように、違法な捜査によって得られた証拠を裁判で用いることはできないのでしょうか。
     この点、たしかに違法な捜査によって得られた証拠でも、物自体には何の影響もないので、これを用いることを認めてもよいようにも思われます。
     しかし、違法に収集した証拠の使用を認めることは、「裁判所が違法な手続きに加担した」という印象を与え、国民から裁判所への信頼を損なうことになります。また、違法な捜査で得られた証拠は裁判から排除するとされていれば、捜査機関もわざわざそのような捜査はしないでしょうから、違法捜査の防止にも役立ちます。
     このような観点から判例上、捜査に重大な違法があって、これによって得られた証拠の使用を認めることが、将来の違法捜査の防止にとって相当でないと考えられる場合には、その証拠を裁判で用いることができないとされています(最判昭和53年9月7日)。
     問題の事例のように、令状なく強制採尿を行うということは非常に重大な違法であり、これを許していたのでは将来も同じような違法捜査を誘発しかねません。したがって、K弁護士の主張するようにJに対する強制採尿で得られた証拠を裁判で用いることはできず、(他に証拠がなければ)Jを有罪とすることができません。


9.紛争解決を中心に

  • Q1: 問 次の場合、L史さんはどの程度の費用の負担をしなければならないのでしょうか。
     「私(L史)は同級生のM雄に対して300万円を貸しているのですが、返済期限を過ぎても返してくれません。弁護士に相談したいのですが、相談料が分からず不安です。また裁判で請求する場合、弁護士の費用はどれくらいで、どの時点で支払うのですか?そして裁判で勝った場合、M雄にその費用を請求できるのでしょうか?」
  • A: 弁護士が受け取る相談料や弁護士報酬については、法律などで一律に決められているものでありませんが、相談料については30分5000円としているところが多いようです。
     また、弁護士報酬については、@事件を受任する際に、求める経済的利益の大きさに応じて受け取る「着手金」と、A事件の解決後に、得られた成果(経済的利益)に応じて受け取る「報酬金」の2段階に分けているところが一般的です。この額については、弁護士会が以前定めていた基準などを参考に、弁護士事務所ごとに決めています。
     ちなみに、旧報酬基準によると、本件のように300万円の請求の場合、L史さんが支払う着手金は24万円となり、また、判決で300万円満額の請求が認められれば報酬金は48万円になります(実際には、事件の難易などでこの額を増減させるなどして調整することになります。)。
     では、L史さんが勝訴した場合、M雄さんに対する弁護士費用の請求は認められるのでしょうか。
     この点、民事訴訟法61条は「訴訟費用は、敗訴当事者の負担とする。」としています。
     しかし、この場合の「訴訟費用」には、弁護士費用は含まれないと考えられていますので、L史さんが勝訴したとしても、M雄さんに対する弁護士費用の請求は認められません。
     なお、交通事故の被害者が弁護士を頼んだような場合には、訴訟費用とは別に、それ自体が損害であるとしてその分の請求が認められることも少なくありません。
  • Q2: 次の場合、N美さんはどのような方法を用いて300万円を回収することができるのでしょうか。
     「私(N美)はO義さんに対する裁判で、300万円支払えという判決をもらうことができました。それでもO義さんが支払わない場合には、給料を差し押さえることができると聞きました。本当ですか?ちなみにO義さんはP食品株式会社から毎月24万円もらっています。」
  • A: たとえ「300万円を支払え」という判決を得たとしても、それだけでは「絵に描いたモチ」のようなものです。そこで、判決内容を実現する手段として、強制執行手続が設けられています。
     強制執行手続を利用するためには、まずN美さんは裁判所に執行文(強制執行できることを裁判所書記官が証するもの)の付いた確定判決の正本を提出して、強制執行開始の申立てを行うことになります(民事執行法25条)。
     それを受けた裁判所は、O義さんの給料を差押えます。この差押えの効力は、300万円+執行費用の範囲内で、差押え後に発生する給料にも及びます(民事執行法151条)。これは、給料のように継続的に支払われるものについては、払われる時期(給料日)にその都度差し押さえなければならないとすると煩雑だからです。
     差押えが行われると、P社はO義さんに対して給料を支払うことが禁止されます(民事執行法145条1項)。
     ただ、給料を全額差し押さえることができるとすると、差押えを受けた人の生活が成り立ちません。そこで、給料については、原則として4分の3までは差押が禁止されています(民事執行法152条1項)。したがって本件では、O義さんの給料24万円のうち、6万円だけが毎月差し押さえられることになります。
     N美さんは、差押命令が出されてから1週間が経過してから、P社に対して取立てを行う(民事執行法155条1項)などの方法で、300万円の回収を図ることになります。
  • Q3: 次の事例でQ子さんが裁判所に行かなかった場合、どのような事態になるのでしょうか。
     「Q子さんは、2か月前にバイパスでR作さんの車に追突されました。Q子さんの車はほとんど損傷しませんでしたが、R作さんの車はフロントグリルが大破しました。Q子さんは、R作さんからの追突事故なので過失はすべてR作さんにあるとして、示談に応じませんでした。するとR作さんは、追突の原因はQ子さんの急ブレーキだとして裁判を起こしてきたのです。『過失のある方が私のことを被告などとして裁判を起こすなんてとんでもない。私にやましいことはないので裁判なんか出る必要がない。』とQ子さんは息巻いています。本当に裁判に出なくていいのでしょうか?」
  • A: 相手方の提出した訴状に対する反論の書面(答弁書)などを提出することなく裁判を欠席すると、相手方の主張する事実を認めたのと同じように扱われることになります。これを擬制自白(民事訴訟法159条1項、3項)と言います。
     本件でもQ子さんが裁判所に行かなければ擬制自白が成立し、R作さんが訴状で主張していることを認めることになります。さらに、それによって判決をするのに熟した(民事訴訟法243条1項)として、R作さんの請求を認容する「欠席判決」が出されかねません。
     このように民事訴訟手続においては、たとえ相手方の主張に理由がないと思っても、訴えられた側は応訴を強制されることになっています。Q子さんとしては、R作さんの訴えの棄却を求める答弁書を提出するなどの対応を執るべきです。
  • Q4: 次の場合、S三郎さんの対応は、法的に問題がないのでしょうか。
     「私(S三郎)はコンビニエンスストアを経営していますが、店には駐車場が4台分しかありません。にもかかわらず、近くの商店街に買い物に来る客が無断で1時間以上も駐車することがあり、とても迷惑しています。そこで入り口に『当店に関係なく無断駐車した場合はレッカー移動します』という看板を掲げました。昨日も無断駐車の車があったので公園までレッカー移動しましたが、何か問題はあるのでしょうか?」
  • A: 無断駐車の車の持ち主は、許可なく車を駐車することで、S三郎さんが店の駐車場としている土地の所有権を侵害しているといえます。そこで、土地の所有者であるS三郎さんとしては、所有権に対する侵害がない状態を回復する権利としての「物権的請求権」に基づいて、車の持ち主に車を駐車場から動かすように求めることができます。
     しかし、S三郎さんが行ったように、他人による侵害を自ら排除し、自らの権利を実現するようなことは禁止されています(これを「自力救済の禁止」といいます)。これは、もしこのようなことが許されるとすると、権利を回復するのに必要な程度以上の暴力が用いられ、社会秩序が維持されないおそれがあることなどが理由とされています。
     ただ、例えば目の前で自分の物が持ち去られようとしている場合のように、侵害が切迫していて、あとで裁判所に訴えるのでは権利の実現・回復が困難になってしまうような場合に限り、自力救済が例外的に許されています。しかし、S三郎さんの場合にはこれに当てはまらず、レッカー移動したことは自力救済としては許されません。
     また、S三郎さんは「当店に関係なく無断駐車した場合はレッカー移動します」という看板を掲げていますが、だからといって駐車した車がそれに同意して止めたとは言い切れません。したがって、S三郎さんと無断駐車している車の持ち主との間にそのような内容の契約が成立したとは言えず、それに基づいてレッカー移動することもできません。
     以上から、S三郎さんは、たとえ無断駐車の車であってもレッカー移動することはできません。
  • Q5: 次の場合、T食品がZ商会に100万円を払ってもよいのでしょうか。
     「私の父が勤めているT食品は事実上倒産してしまいましたが、その際、裁判所の手を借りずに任意整理という方法を取りました。各債権者に20パーセントの配当で勘弁してもらうという案を提示し、ほとんどの債権者が応じてくれたのですが、Z商会だけがだめなのです。この会社は○○組系のフロント企業と言われており、毎晩のようにヤクザ風の男数人が会社や社長の家に押しかけてきて威圧するのだそうです。最近になってZ商会の債権200万円について100万円支払えば手を引くというので、他の債権者には内緒でそのようにしたいと社長が言い出しているようです。100万円を支払っていいのでしょうか?」
  • A: 任意整理とは、裁判所が関与しないで行われる倒産処理の方法のことです。裁判所が関与しないため、手続きが簡易で迅速に進み、費用も低廉なもので済むことが多いというメリットがあるとされます。
     任意整理については、その手続きについて破産手続のような法律上の規定がありません。しかし、倒産処理手続である以上、その手続きの進め方に、債権者に対する公平さ・公正さが求められることには違いがありません。
     したがって、T食品がZ商会に対し100万円を支払うことは、他の会社よりも大きな割合で配当を行うことになり、公平さ・公正さに反するため許されないと考えます。
     要求を拒絶してもなお、Z商会が100万円の支払いを求めるような場合には、破産手続などの法的整理に移行することも視野に入れていることを伝えながら、要求を断念させる交渉をするのが一案かと思います。


 


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