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弁護士法人 杜協同 阿部・佐藤法律事務所は、企業法務・行政・医療・倒産事件を専門とする弁護士法人です。

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 49.学校におけるスポーツ事故の法的問題

  • Aさん  町立中学校の体育のプールでの水泳の授業中に、生徒が飛び込みの際に耳を切って血が出るという怪我をしてしまいました。幸いにも今回は保健室で止血ができて、傷跡も残らなかったのですが、不幸にして後遺障害が残るような場合には、教員や学校や町に民事上の損害賠償責任が生じるのでしょうか。
  • 弁護士  公立学校の授業中のスポーツ事故ですので、国家賠償法1条の賠償責任が問題になります。この法律が適用される場合には、行政主体である町が責任の主体となり、教員個人は責任を負いません。また、学校も独立した法人格を有していませんので、責任を負うということはありません。そして、行政主体が国家賠償法1条の責任を負うためには、行為者の公務員が故意又は過失によって違法に損害を加えたという要件が必要ですので、体育の授業を担当していた教員に過失が認められるか否かが重要な争点になります。
  • Aさん  体育の授業の場合、30名を超える生徒を教員1人で指導するということも多いと思われますので、どのような場合に教員の過失が認められるのかという判断は、とても難しいのではないでしょうか。
  • 弁護士  そうですね。教員は体育の授業を通じて生徒の教育面での指導が要求されると同時に、スポーツに内在している危険が現実に発生しないように生徒の安全を確保するという役割を期待されているわけです。危険性の高いスポーツほど、教員には安全を守るための高い注意義務が求められているのですが、具体的な注意義務についてはケース毎に具体的に判断していくことになります。水泳は水に全身が入るわけで、それ自体危険な要素を持っていますので、指導にあたる教員も生徒の能力をきちんと把握して、事故の起きる可能性を考え、これを回避することが求められます。
  • Aさん  授業中の水泳事故で自治体の責任を認めた判例には、どのようなものがあるのでしょうか。
  • 弁護士  福岡地裁昭和63年12月27日判決が責任を認めている裁判例です。高校1年生の生徒が水泳実技の最初の授業の際に、スタート台からの逆飛び込みをして、プールの底に頭を打ちつけて頸髄損傷を負った事案について、教員には安全配慮義務を尽くさなかった過失があると認定しました。具体的には次のような理由を示しています。@初回授業は生徒の泳ぎの習熟度を調べる目的であれば、主眼は水中での泳ぎで足りること、A逆飛び込みは過去にも事故が起きているのであるから、安全かつ段階的指導を講じる必要があったこと、B逆飛び込みについて、とおりいっぺんの注意と身振りでの説明だけで、模範演技をするとか、事故防止の具体的指示にも欠けていたこと、等です。
  • Aさん  責任を否定した裁判例も紹介して頂けますか。
  • 弁護士  神戸地裁平成2年7月18日判決は責任を否定しています。これは中学校2年生の生徒が正規の体育の授業として水泳中に、タイム測定のために泳いでいたところ、ゴール付近でけいれんのような状態になって水没してしまい、溺死した事案です。裁判所は、想定されるいくつかの注意義務について、それぞれ判断しています。@安全配慮義務については、生徒の年齢、水泳の習熟度等からすると、生徒が疲労を回復しないままに泳いだとは認められないとして義務違反を否定しました。A監視義務については、授業の際に監視台を設置して全体監視者を置く必要があるとは認められないし、教員は目の前で直ちに溺れている生徒を引き上げたとして義務違反を否定しました。B救助義務については、教員が水着姿でなかったとしても、それによって救助が殊更に遅れていないし、専ら心臓マッサージを選択して施したことも不相当ではないとして義務違反を否定しました。
  • Aさん  今の裁判例をお聞きすると、様々な時点での注意義務違反の有無を検討しているのですね。
  • 弁護士  プールでの水泳事故としては、飛び込みの際の事故と溺死事故の二つが大きな比率を占めています。神戸地裁が細やかに判断しているとおり、教員の注意義務という人的要因としては、安全配慮義務、監視義務、救助義務が重要です。前述した福岡地裁の判決は、まさにこの安全配慮義務違反を認定したものですし、神戸地裁の判決はいずれの義務も否定しています。
  • Aさん  人的な要因というより、施設に欠陥があって事故が発生する場合もあるのではないでしょうか。
  • 弁護士  その通りです。プール事故の中でもう一つ重要なのは施設の安全性という物的要因です。例えば飛び込み事故では飛び込み台の高さや水深等に危険な点がなかったのか、溺死事故ではプールの排水口に問題がなかったのかが争点となる事案が目立ちます。
  • Aさん  その場合も公立学校の場合には国家賠償法の問題になるのでしょうか。
  • 弁護士  人的要因が国家賠償法1条の問題であったのに対して、施設の安全性という物的要因は同法2条の「公の営造物の設置・管理の瑕疵」という問題になります。プールに通常有すべき安全性が備えてあったかということを構造、利用方法、管理体制等から判断することになります。
  • Aさん  そうした物的要因を判断した裁判例があれば紹介して下さい。
  • 弁護士  静岡地裁沼津支部平成10年9月30日判決はプール排水口の蓋がボルト等で固定されていなかったために、何者かによって蓋が取り外されていた状態で、小学校五年生の生徒が排水管口に膝が吸い込まれてしまって脱出できずに溺死した事案です。裁判所は、排水口の蓋の固定は、その不十分さを原因とする死亡事故が発生していることから、文部省でも注意喚起をしていたとして、当該自治体も自認しているとおり、設置・管理上の瑕疵があるとして損害賠償の責任を認めました。
  • Aさん  文部科学省の中学校学習指導要領の改訂に伴い、平成24年度から武道が必修化されて、3分の2の学校が武道の中でも柔道を選択しているそうです。そのような中で今回は柔道の学校における事故の法的問題を中心として教えて下さい。
  • 弁護士  武道の必修化は、武道の伝統的な考え方を理解し、相手を尊重して練習や試合が出来るようにするというのが、文部科学省の目的のようですね。一方柔道の格闘技性には生命・身体に対する危険が内在していることから、実施の際の安全の確保が大きな問題になっています。
  • Aさん  柔道事故が裁判の対象になることは多かったのですか。
  • 弁護士  前回お話ししたプールでの水泳事故と匹敵する数の多さです。授業時間中の事故について学校の責任を認めたのは、熊本地裁平成23年1月17日判決です。この中学校では男女を問わずに柔道を必修にしたことから、中学3年生の女子学生が体育の授業中に同級生から技をかけられたが、受け身を取ることができずに、床に右手を打ち付けて怪我をしたという事案です。判決は、@女子生徒なので、筋力が男子より弱く、受け身を修得するには一定の練習量が要求される、A現実にはカリキュラムに比して確保されていた授業時間が少なかく受け身についての練習回数や方法が不十分であった、Bそうした中で、技をかけあう練習を行ったことには過失がある、と認定したものです。
  • Aさん  今回の文部科学省の学習指導要領の改訂では、正確には武道とダンスの双方を必修としたのに対応して、武道の中から柔道を選択した学校が多かったわけですが、この事件の時は熊本県教育委員会では武道とダンスのいずれかを必修にしたのだそうです。女子が柔道で怪我をしたということで、この点は問題になりませんでしたか。
  • 弁護士  裁判においては、一つの争点になりました。女子生徒の興味関心を考慮しないで突然柔道を強制したことも問題であるという指摘が原告からなされたのです。判決はこの点にも言及しており、ダンスとの選択制を取らずに柔道を男女とも学習することにしたことは不合理ではないし、全生徒が柔道を学ぶことは年度の体育の1回目の授業で説明されていると認められると判示しています。
  • Aさん  柔道の事故に関しては最高裁の判決も出されているのでしょうか。
  • 弁護士  最高裁平成9年9月4日判決が出されています。この判決は中学校における柔道教育について次のような判示をしています。「柔道は技能を競い合う格闘技であり、本来的に一定の危険が内在しているから、学校教育としての指導、特に心身ともに未発達な中学の生徒に対する柔道の指導にあたっては、その指導に当たる者は、柔道の試合又は練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負う」この判決が、その後の柔道事故についての法的判断の基本的な枠組みとなっています。
  • Aさん  授業中ではなく、クラブ活動の場合は、技能が高くなっている生徒もいて、かけあう技も高度なものが増えてくるので、事故も多くなるように思うのですが、裁判になっていますか。
  • 弁護士  横浜地裁平成23年12月27日判決がクラブ活動中の事故について学校側の責任を認めています。市立中学校の3年生だった生徒が柔道部の顧問教諭と乱取りをしていたのですが、生徒が一度絞め技をかけられて、半落ちとなった後、正常な状態に回復していないのに乱取りを再開し、受け身を十分に取ることができない状態なのに背負い投げ、一本背負い等の技をかけた結果、生徒が急性硬膜下血腫を発症して、重大な後遺障害が残ってしまったという事案です。
  • Aさん  実は私も昔柔道を習っていたことがあるのですが、絞め技で半落ちになると意識が朦朧としてしまい、なかなか元に戻りません。それなのに乱取りを再開したというのは危険ですね。
  • 弁護士  裁判所も、この顧問教諭は各種大会で優勝経験もある26歳の男性で、中学3年生の生徒とは明らかな体力差、技能差があったということを前提として、危険性を指摘して、Aさんと同じような評価をして、教諭の過失を認めています。また、クラブ活動中であることが、注意義務の程度を低くするということもありません。クラブ活動は学校教育の一環として位置づけられており、これを実施する学校は正規の授業時間中と同じように、参加する生徒の生命・身体の安全を確保するための万全の措置を取ることが要求されているからです。
  • Aさん  クラブ活動の中で、地域の有段者が外部コーチとして指導するようなこともあると思いますが、そうした指導者の過失で事故が起きた場合、誰が責任を負うことになりますか。
  • 弁護士  私立学校の場合には、民法709、715条が適用され、指導者も学校も責任を負うことになります。しかしながら、公立学校では国家賠償法1条が適用されることになる結果、外部コーチとして委託された指導者本人は基本的に責任を負わずに、学校を設置する自治体が責任を負うことになります。
  • Aさん  柔道の授業が必修化されることに伴って、教育現場ではどのようなことに留意しなければならないのでしょうか。
  • 弁護士  文部科学省は平成24年3月に「武道必修化に伴う柔道の安全管理の徹底について」を明らかにしました。その中で柔道の授業における安全管理のためとして次の6つのポイントを挙げていますので、原文にも当たってみて下さい。@練習環境の事前の安全確認、A事故が発生した場合への事前の備え、B外部指導者の協力と指導者間での意思疎通・指導方針の確認、C指導計画の立て方 、D安全な柔道指導を行う上での具体的な留意点(受け身の重要性等)、E万一の場合の対処(怪我の手当等)

 


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