刑事事件に関する問題
地震と刑事裁判の進行
A:3月11日の震災直後、最高裁判所は3月14日から18日までの裁判をすべて中止するという公告を出しました。
その後は、仙台の場合、刑事事件は高裁、地裁、簡裁、家裁(少年事件)ともに、関係者の被災状況と交通事情を考慮して可能なものから(新しい)期日を指定することにしています。
しかし実際には22日からの週はほとんど行われず、28日からの週に再開された事件が多かったようです。
A:裁判員裁判は、連続した1週間程度の日にちが必要なので、一般の事件と違って期日の指定はむずかしそうです。
担当された弁護士からの報告によると、1件の事件が事実の取調べをほぼ終えて休憩に入ったところで地震に襲われましたが、翌週裁判員は全員解任となったとのことです。
裁判所としては、裁判所の設備、機構がいつ利用できるようになるか見通しが立たない一方で、裁判員の方々の被害状況が明らかでなく、直ちに裁判所の召集に応ずることができる状況なのかの予測が困難なことなどから、こうした措置をとったものの推測されます。
この事件は、裁判員を新たに選任してやり直すことになるのではないでしょうか。
A:ご存じと思いますが、被疑者(起訴前の人)についてははじめ10日、更新して10日、合計20日までの勾留が認められます。
被告人(起訴後の人)については原則として裁判が終わるまで勾留が認められます。
まず被疑者の方ですが、勾留中地震がきて以後取調べができなくなったとします。
こういう場合でも20日の期間がくれば、起訴するか釈放するか、どちらかの処置をとらなければなりません(特別の犯罪には刑事訴訟法208条の2の例外がある)。
後者の場合には、もちろん在宅で捜査を続けることはできます。
ちなみに、新聞によると、地震発生の11日から16日にかけて、仙台地検は勾留中の者30名(被疑者27名、被告人3名)、福島地検は同じく31名を処分保留のまま釈放したとのことです。
窃盗、詐欺など比較的軽い事件の者が多かったようですが。
次に勾留されている被告人についてですが、地震で裁判が長引けば、被告人はそれだけ長く勾留されることになります。
これは、(有罪の場合には)未決勾留日数の本刑算入で考慮されることになるでしょう。
地震と犯罪
A:一般に、窃盗とは「人が占有している物」を窃取することです。
占有とは、物に対する事実上の支配又はその可能性があることをいいます。
家が倒壊して人が住んでいない場合でも、家自体はもちろん家の下にある物については、家の持主の占有が認められるのが通常です。
従ってそこから盗めば、窃盗になります。なお金庫というのは、本来火事や盗難から中の物を守るための設備ですから、金庫を破って中の物を取り出せば、それだけで窃盗になるという考え方もあります。
A:津波によって大切な書類や沢山の思い出の品が流されました。
これらは、なんらかの価値ある物である限り、単なる瓦礫ではなく、遺失物に当たると考えられます。
旧遺失物法は、「漂流物」を準遺失物として挙げていたのですが、新法にはありません。
しかし漂流物はやはり新法の「その他の占有を離れた物」に含まれることは間違いないでしょう。
従って、勝手に自分の物にすれば、遺失物横領になります。
A:確実な予測はむずかしいのですが、戦争と犯罪の関係から類推してみると、戦中は国民すべてが空襲や疎開といった緊張した生活を強いられたので、かえって犯罪は少なかった。
昭和20年の敗戦後の数年に犯罪が急激に増えたのです。
今度の震災でも、今は被災民、国民一丸となって当面の復旧に全力をあげていますが、一応復興の道筋がついてほつとした頃が警戒を要するといえるかもしれません。