借地借家の問題
借地上の建物の流失
A:借家の場合とは違って賃貸借の目的物(土地)がなくなるわけではないので、借地権は消滅しません。
ご質問のような特約があった場合でも、原則として同様に考えて構いません。
そのような特約は、借地法11条、借地借家法9条に基づき無効とされるためです(最判昭33・1・23)。
ただし、借地権が一時使用目的の場合には、そのような特約も有効と解されていますので、その点だけは注意が必要です。
A:そのままにしておいてはいけません。
借地権の対抗要件としては、一般的に借地上の建物の登記が利用されてきました(借地借家10条1項)。
しかし、建物が消滅してしまうとこの建物の登記は無効な登記となり、対抗力もなくなってしまいます。
したがって、今のままの状態で、第三者が当該土地を買い受けて所有権移転登記を完了すると、買受人に借地権を対抗できなくなってしまいます。
このような事態を防ぐためには、借地人が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を、土地上の見やすい場所に掲示することが必要です(借地借家法10条2項)。
この掲示による対抗力は建物の滅失から2年間認められますが、その間に建物を新たに建て、その建物の登記をしなければなりません。
また、この掲示は継続的に行われていることが必要で、掲示が滅失すると原則として対抗力が失われるので、定期的にチェックして、滅失した場合には直ちに再掲示するなどの注意が必要です。
参考までに、掲示の例を挙げておきます。
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本件土地については、下記のとおり借地人が借地権を有し、建物を所有しておりましたが、平成23年3月11日の地震及びこれによる津波によって同建物が滅失しました。
借地人は同日から2年以内に建物を再築する予定ですので、借地借家法10条2項に基づく掲示をします。
記
1.土地の表示
2.借地期間
3.借地人の表示(住所・氏名)
4.滅失した建物の表示(所在・家屋番号・種類・構造・床面積)
5.建物が滅失した日
6.本掲示設置日
7.連絡先(電話番号)
以上
借家の滅失
A:賃借家屋が地震等で滅失した場合には、賃貸借契約は履行不能により終了するのが原則です。
この場合、賃貸人と賃借人はそれぞれ契約上の義務を免れ、敷金や保証金を清算することになります。
A:木造建築かつ火災による滅失についての2つの裁判例があります。
裁判例では、いずれも2階部分はほとんど焼失したものの1階部分の被害は限定的であったような事案について、滅失したといえるかどうかの判断が分かれています(なお、事案の詳細は最判昭和42・6・22、大阪地判昭45・9・25)。
裁判所の判断の分岐点はかなり微妙ですが、いずれも①建物の損傷の程度(賃借目的物の主要な部分が焼失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達しているかどうか)と②経済的観点(通常の費用で修復可能かどうか)を問題としており、参考になります。
A:今回のような大地震で先ほどの原則をそのまま適用すると、多くの人が生活の本拠を失うことになりかねません。そのため、昭和21年に罹災都市借地借家臨時処理法(以下「罹災都市法」といいます。)が制定されています。
A:罹災都市法は、大地震などの災害が発生した後、政令で指定されることによって適用されることになっています。
今のところ東日本大震災はこの政令の指定を受けていません。
この罹災都市法では、
①罹災時に地主と家主が同一であった場合など、建物滅失当時に敷地に借地権が存在しなかった場合には、従前の借家人は2年以内に土地の賃借を申し出ることによって、他の者に優先して、相当な借地条件でその土地を賃借することができる(優先借地権・2条1項)
②家主が地主から土地を借りその上に建てられた建物を賃貸していたような場合など、罹災時に借地権が存在した場合には、従前の借家人は2年以内に当該借地権を譲り受ける旨申し出ることによって、他の者に優先して、相当な対価でその借地権を譲り受けることができる(借地権優先譲受権・3条)
③従前の借家人は、地主や借地人が罹災後最初に建てた建物について、その完成前に申し出ることにより、他の者に優先して、相当な借家条件でその建物を賃借することができる(優先借家権・14条)などとされています。ただし、これらの規定には一定の要件がありますので、個別に弁護士に相談してみることが必要だと思います(2条1項但書等参照)。
被災建築物応急危険度判定制度
A:被災建築物応急危険度判定というものです。
市町村の災害対策本部が、専門家を派遣して被災した建物が地震後に余震などによって倒壊する危険性、タイルや外壁が落下する危険性等を判定して、二次災害を防止するための制度です。
応急的な判定ですので、外観を目視して行うのが一般的です。
A:判定の結果は3段階に分かれます。
結果に従って次のようなステッカーを玄関等の見やすい位置に貼ることになっています。
・ 調査済・・・・・・緑色のステッカー
・ 要注意・・・・・・黄色のステッカー
・ 危険・・・・・・・赤色のステッカー
仙台市では震災後、3月31日までに約7200件の判定を実施しており、そのうち約1000件が危険、約1900件が要注意と判定されたようです。
A:判定に強制力はありませんが、そのまま使用するのは危険です。
使用を中止して、一時避難所に避難するか、引き続き使用したい場合には、建築の専門家に早急に依頼して、どのような補修・補強をすれば使用できるのかを調査してもらうことが必要です。
A:「借家の滅失」というテーマでも触れましたが、建物が滅失したというためには、建物の損傷の程度、修繕に要する費用の両面から検討することが必要です。 今回ご相談の判定はあくまでも応急的に危険としたもので、その建物が滅失したと判断できるか否かは、もっと深く踏み込んだ調査が必要です。 まずは当事者間で良く話をした上で、建築の専門家に相談してみては如何でしょうか。
借家の修繕費用
A:賃貸人は、賃借物の使用及び収益に必要な修繕をなす義務を負うとされています(民法606条1項)。しかし、特約で賃貸人の修繕義務の範囲を制限している場合もあるので、まずは契約書の確認が必要です。
A:一般的に、修繕費を借家人の負担とする特約自体は有効と解されています。
もっとも、「すべて借家人が修繕する」として修繕義務の範囲が明示されていないような場合には、借家人が負担する修繕の範囲は、小修繕ないし通常生ずべき破損の修繕の範囲に限られるべきと考える立場が有力です。
今回のような予想外の大規模な地震による損壊については、特約があったとしても借家人は修繕義務を負わないと考えるべきです。
古い判例ですが、予想外の天災による修繕義務は賃借人に及ばないとしたものがあります(大判大10・9・26、大判昭15・3・6)。
A:おっしゃるとおり、そうなると先ほど述べた民法の原則に戻って賃貸人の修繕義務の問題となるわけですが、どんな場合にもこの修繕義務が生じるわけではなく、①必要な修繕であること、②修繕が可能であること、という2つの要件を満たす場合に生じるとされています。
このうち、①修繕の必要性については、修繕しなければ賃借人が契約によって定まった目的に従って使用収益することができない状態になった場合に認められます。
②修繕の可能性については、物理的・技術的な面だけではなく、経済的な観点からも判断されます。
経済的な観点というのは、例えば、修繕費用が新築費用に匹敵する程に高額になる場合や、賃料の安さに比して修繕費が過大にかかるような場合に、修繕可能性がないと考えることがあるということです。
一般的にはこのように考えられていますが、具体的にどのように修繕するかは家主との協議によるところも多いので、まずは家主に相談してみて、そのうえで弁護士に相談してみるとよいと思います。
借家からの退去
A:いえ、この場合は賃料支払義務が生じてしまうおそれがあります。
賃貸借契約においては、賃貸人は賃借人に目的物を使用収益させる義務を、賃借人は賃料を支払う義務を負っていますが、例えば避難勧告が出ているなど、目的建物の使用が客観的に不可能な場合には、賃料の支払い義務は生じないと考えられています。
しかし、建物が客観的に使用収益できる状態にあるのに、賃借人が主観的な事情で使用収益をしないときには、賃料の支払いを拒むことができないとした判例があります(大判明37・9・29)。したがって、建物の損壊の程度にもよりますが、余震もあって怖いというだけでは賃料は支払わなければならないと思います。
A:まず前提として、修理のため家主から一時的な退去要請があった場合には、借家人は必要な範囲でこれに応じなければなりません(民法606条2項)。
これに従わないと、契約解除の理由とされてしまうこともあるので注意が必要です。
そして、修理のために明渡している間は借家を使用収益できないので、家賃を支払う必要はありません。
なお、修理のために仮住まいに引越したとしても、引越費用や仮住まいの家賃等は家主に請求することはできません。
これは必要な修繕が家主の権利でもあるため、それによって賃借人に損害が生じても賠償請求ができないとされているためです。