債務に関する問題(リース・倒産含む)
破産手続における支援金等の扱い
A:「震災に起因する倒産」の回でも説明しましたが、住宅ローンの対象となっている建物が全壊したとしても、政府・金融機関が被災者を対象に何らかの救済措置を講じない限り、住宅ローンの支払義務は消滅しません。
住宅ローンが残ると、金額が大きいため、返済が困難な場合も多いと思います。
その場合、裁判所で破産・免責手続をとることが必要になってくるかもしれません。
破産手続についても、「震災に起因する倒産」の回で詳しく説明していますので、ご参照ください。
A:仙台地方裁判所第4民事部(破産・再生部)では、受給する前の支援金については、破産財団を構成しないとして、債権者には配当しないという取扱いをするとしています。
これは災害弔慰金・見舞金や義援金についても同様です。
破産法では、「差し押さえることができない財産」は破産財団に属しない(破産法34条3項2号)とされているのですが、支援金は法律上差押禁止とはされていません。
しかし、未受給のものについては、その性質から一身専属的な権利として、性質上「差押ができない財産」と考え、債権者への配当の対象となる破産財団に含めない、つまり手元に残すことができるということです。
なお、報道によれば、これら支援金等については、法律上差押禁止とする議員立法の動きもあるようです。
A:支援金も、既に受給していた場合には破産財団に属すると考えられ、原則として債権者への配当の対象になると思われます。
もっとも仙台地裁では、支援金のうち、基礎給付(被災者生活再建支援法3条1項)については、当面の生活資金として使用されるべきものとして資産性の認定において余剰資力とはみなさない(実質的に破産財団に属しない)といった取扱いを予定しているとのことです。
このような取扱いがなされれば、財産として支援金のみがあるという場合には、破産手続は開始決定と同時に終了することになり(同時廃止)、支援金を手元に残すことができます。
仙台地裁では、受給後の義援金や災害弔慰金・見舞金についても、支援金同様、資産性の認定や自由財産拡張手続において柔軟な対応を考えているとのことです。
リース物件の毀損
A:結論としては、規定損害金を支払わなければならない場合が多いと考えられます。
リース契約は、リース業者がリース物件を使用収益させる義務を負い、ユーザーはその対価としてリース料を支払う義務を負う双務契約です。民法の一般的な原則に従うと、リース物件が不可抗力によって滅失・毀損した場合には、リース業者が負う物件を使用させる義務は履行不能となり、リース業者は反対給付であるリース料請求権を失うため(民法536条1項:危険負担の債務者主義)、リース料を支払う必要はなくなります。
しかし、通常のリース契約では、特約でこの民法の規定の適用を排除しています。そして、不可抗力など双方の責に帰することができない事由によりリース物件が滅失・毀損した場合には、ユーザーは直ちに規定損害金を支払わなければならないとされているためです。まずはリース契約の内容を確認してみて下さい。
A:先に述べたとおり、リース業者の物件を使用させる義務は履行不能となり、リース契約も終了するため、残念ながらそれもできません。
A:この危険負担免責の特約については、必ずしも当事者間の公平を著しく欠くものということにはあたらないとして肯定した下級審の裁判例があるのです(大阪地判昭51・3・26)。
裁判所は、リース契約が金融的性格を有すること(実質的にみると、リース業者はユーザーに物件の購入資金を融資して、ユーザーが物件を購入したのと同一の経済的効果を与えることを意図していること)を前提として、そのように判断しています。
ただし、リース物件には、通常リース業者が動産総合保険をかけています。まれに地震保険も付いている場合がありますので、リース業者に問い合わせてみてください。
また、保険が使えない場合でも、経済産業省が、平成23年4月1日に、リース会社で組織される社団法人リース事業協会に対し、中小企業からリースに関する支払猶予や契約期間延長の申し込みがあった場合には、柔軟かつ適切な対応をするよう、所属するリース会社に周知徹底することを要請していますので、リース会社とよく相談してみることをお勧めします。
震災に起因する倒産手続
A:まずは住宅ローン等の取扱金融機関の窓口に相談してみてください。
当然に認められるわけではありませんが、金融機関によって、金利の減免や支払の猶予に応じている場合があります。
A:今後の生活の見通しがはっきりしない状況で、最終的な決断をする必要はないと思います。
今後収入の見込みがはっきりして、やはり従前どおり払うことが不可能であった場合には、裁判所で、住宅資金特別条項を利用した民事再生手続を利用するのも一つの方法だと思います。
民事再生手続は、債務の減免や支払期限の猶予などを定めた再生計画を作成し、裁判所の認可を得たうえで、計画に従って債務を返済していく手続で、中小企業や個人事業者を念頭に置いて制度設計されたものですが、サラリーマン等でも利用できるように、小規模個人再生や給与所得者等再生という簡易化された手続きが用意されています。
債務総額(住宅ローン債務等を除く)が5000万円以下であることは小規模個人再生と給与所得者等再生の共通した要件ですが、そのほかにも細かな要件があるので、実際に手続をとる場合には弁護士等の専門家に依頼することが必要です。
A:住宅ローンの対象となっている建物が全壊したとしても、基本的に住宅ローンの支払義務は消滅しません。
今後、政府・金融機関が被災者を対象に何らかの救済措置を講じない限り、支払義務だけが残ってしまいます。
この場合、自宅はないのにローンは払わなければならないという状態になってしまい、生活の立て直しが困難となることも考えられます。
そのような場合には、裁判所で破産・免責手続をとることが必要になってくるかもしれません。
破産手続とは、債務の返済が不可能となった場合に、債務者の財産を金銭化して、各債権者に配当する手続です。
ただし、最低限生活に必要な財産は残すことが認められます。
免責手続というのは、個人の債務者の場合に、財産の配当後に残った債務について、裁判所の許可により支払を免れさせる手続です。
免責が許可されれば、税金等の一定の債務を除いては支払義務が免除されます。
この破産・免責手続きについても、やはり弁護士等の専門家に依頼することが必要です。
ただし、まだ生活が不安定な状況で急いで破産・免責手続をとる必要はないので、まずは金融機関等の債権者と相談しながら生活の立て直しを優先した方がよいと思います。
資金繰りの悪化
A:今回の地震後、中小企業、金融庁・日本銀行・経済産業省から金融機関に対して、被災中小企業者の既存債務について、返済猶予をはじめとする条件変更に柔軟に対応するよう要請がなされています。
銀行に返済を待ってくれるよう連絡すれば、対応してくれる可能性は高いと思います。
A:金融機関では、他にも被災した中小企業向けに資金繰りを支援する制度を創設していますので、これを利用してみてはいかがでしょうか。
具体的には、政府系金融機関(日本政策金融公庫及び商工組合中央金庫)が設備資金や運転資金を融資するもの(災害復旧貸付等)や、その他の金融機関から事業再建資金の融資を受ける際に信用保証協会が保証する(災害関係保証)といったものが発表されています。
また、地元の民間金融機関でも同じような特別金利の災害復旧支援融資を行っているようです。
A:もちろん審査はありますが、未曾有の大災害ですから、平常時と同じく考える必要はないと思います。
現に担保不要と発表している金融機関もあります。
まずは地域の金融機関の支店に相談してみることをお勧めします。
なお、政府系金融機関の災害関係保証については原則として罹災証明書が必要となりますし、災害復旧貸付等についても罹災証明書があれば金利等に関して優遇措置があるようなので、市区町村等に申し込んで下さい(「罹災証明書について」の項も参照)。
手形・手形帳の流失
A:手形金の支払いを受けるためには、現に手形を所持しており、支払いと引換に手形を振出人に交付することが必要です。
このことは手形授受の原因関係上の債権(例えば売買代金債権)の行使についても基本的に同様です。
今回のように手形の現物を喪失してしまった場合には、まず警察に遺失届を出して下さい。その上で、簡易裁判所に公示催告の申立て(非訟事件手続法141条)を行い、除権決定(同法148条1項)を得れば、手形なしに振出人に手形金を請求することができます(同法160条2項)。
ただし、この除権決定を受けても、裏書人に対する遡求権の行使はできないと考えられています(最判平5・10・22)。また、除権決定には時効中断の効力もないので、注意が必要です。
A:除権決定が出るまでには半年程度の期間がかかります。
早期に資金が必要だということであれば、振出人に対して「今後他に手形上の権利を主張する者が現れた場合には、その解決については当社が一切の責任を負います」といった念書を差し入れて、除権決定前に支払ってくれるようお願いするもの一つの方法だと思います。
A:手形帳についても、やはり警察に遺失届を出して下さい。
このとき、将来手形帳が悪用された場合に備えて、遺失届の受理証明をもらうことを忘れないで下さい。銀行にも同時に遺失届を出しておくとよいでしょう。
手形決済ができない場合
A:手形法54条の規定に基づく「不渡処分の猶予」という特別措置があります。
具体的には、銀行に地震のために決済資金が準備できなくなったことを届けて下さい。
通常は不渡手形に「資金不足」という付箋が付けられて返されるのですが、上記の届出をした場合には、その付箋に「なお、3月11日の地震による」というなお書きが追加されます。
これによって、不渡処分の前提となる「不渡報告」が猶予されます。もっとも、猶予の期間は1ヶ月程度と考えられますので、その間に決済資金を準備することが必要となります。
A:再建の見込みがあり、そのための資金が準備できるのであれば、その資金は手形決済に回すのではなく工場の再築等に回すべきだと思います。
今回は未曾有の大震災によるものですから、手形債権者が支払いの猶予をしてくれる可能性もあります。このとき、個別の債権者との交渉が必要となる場合も考えられます。
そのような場合には、弁護士に相談して、きちんとした再建計画を作成するなどして進めた方がよいでしょう。
A:法的な手続きとして、民事再生手続をとることが考えられます。
民事再生は裁判所に申立てて行いますが、これと同時に弁済禁止の保全処分の申立てを行うことによって、手形の不渡処分を回避することができます(いわゆる「0号不渡」)。
民事再生手続では、会社の債務と資産を確定させたうえ、再生計画を提出します。
再生計画の中身としては、例えば一定金額の債務免除を受けたうえで残額を数年間で分割払いするといったものが考えられます。
この再生計画に債権者(頭数と議決権額双方)の過半数の同意が得られれば、基本的に再生計画に沿って手続が進行していくことになります。
この民事再生手続を行う場合には、弁護士に依頼することが必須です。