震災法律相談Q&A

取引上の問題

原発による避難区域での建物建築

A:半径20キロメートルであれば、政府の指示による避難区域です。
避難区域で工事の施工は困難ですので、中止せざるを得ません。
民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款32条1項cは不可抗力などによって請負人が施工できないときには工事を中止することができると定めています。

A:同約款32条4項aは中止期間が工期の4分の1以上か2ヶ月以上になったときは、請負人から契約を解除できると定めています。
本件では大震災による中止から2ヶ月以上経過していますので、契約を解除して白紙に戻すことができます。

A:地図を見てみると1キロメートル先までは緊急的避難準備区域に指定されているのですが、契約現場は指定区域ではありませんね。
緊急的避難準備区域とは常に緊急時には避難可能な準備が必要で、自主的な避難をし、子どもや妊婦等は区域に入らないようにし、学校等も休校とされています。
そこから1キロメートルしか離れていないとすれば、工事にも様々な支障がありそうですね。

A:半径20キロメートル内の避難区域のように、直ちに「不可抗力などによって請負人が施工できない」とは言えないとしても、職人さんの確保や資材の搬入に大きな支障があれば、施工に困難が生じていることは明らかです。
また、原発の収束予想がついていませんので、何時になったら施工の支障がなくなるのか不透明な状況です。
万が一状況が悪化すれば、避難区域に組み入れられることもないとは言えません。
これらを総合的に判断すると、一旦は工事を中止して、その期間が長くなれば、先ほどの事例と同様に契約の解除ができると考えられます。
但し、一方的な解除によってトラブルが大きくなることも考えられますので、まずは注文者と十分に協議してみることをお勧めします。

納入前の商品の損壊

A:前提として、取引先との間の契約は、業務用のエアコン5台を目的とする売買契約(民法555条以下)です。
売買契約においては、売主は目的物を引き渡す債務を負い、買主は目的物の対価を支払う債務を負います。
売主(取引先)が負っていた目的物(エアコン)を引き渡す債務を履行することが不可能になった(履行不能)場合、新たなエアコンを用意してもらうことはできません。
そして、当該エアコンが特定物(例えば不動産や美術品等、その物の個性に着目して契約がなされた場合)であれば、売主の債務は履行不能となってしまいます。
これに対し、当該エアコンが種類物(例えば新車等、その物の個性に着目せず、一定の種類に属する物として契約がなされた場合)には、他から同種同等の物を調達することが可能であるため、原則として履行不能にはなりません。

A:ちょっと待って下さい。契約時は種類物を目的としていても、その後目的物の「特定」が生じた場合には、基本的に特定物の売買と同様に扱われることになります。

A:民法401条2項は、「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。」と規定しています。
取引先の準備の状況にもよりますが、「特定」が生じている可能性はあると思います。

A:いえ、特定物(特定後の種類物も同様)の売買契約においては、目的物が売主の帰責事由なく滅失又は損傷した場合でも、代金を支払う債務は消滅しないとされています(危険負担の債権者主義・民法534条1項(種類物につき同条2項))。
ただし、この債権者主義を広く適用することについては批判も多いところです。
534条も任意規定なので、特約でその適用を排除している可能性もあります。
まずは契約書をきちんと確認してみることをお勧めします。

悪質なリフォーム業者

A:大きな震災の後では混乱に乗じて、悪質業者が消費者を食い物にすることがあります。
今回は訪問販売で、屋根の修繕は特定取引法で指定されている指定役務ですので、理由の如何にかかわらず、「クーリング・オフ」という権利を行使して契約を解除することができます(特定商取引法9条1項)。

A:業者には契約条件を明確にした書面の明記義務がありますので、その書面の交付を受けた日から8日以内に契約を解除する旨の通知を書面で送付して下さい。
期間制限がありますので、内容証明郵便にするのが良いでしょう。

A:屋根の張り替えが完成していても、クーリング・オフをすることができます。まだ代金を支払っていなければ、支払いを拒否できますし、既に代金を支払っていた場合には、その返還を求めることができます。

A:契約が解除されたわけですので、工事業者が自分の負担で原状回復することになります。
震災後は特に訪問販売には注意が必要です。
屋根のリフォーム以外にも、水道水が汚染されている等と言って浄水器を売りつけられたという被害も報告されています。

請負における工期及び代金の変更の可否

A:請負工事の場合にはほとんどが契約書を締結しているはずです。
最も多く用いられている民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款30条によれば、違約金の発生は請負者に責任のあることが前提とされています。
今回の震災は震度7というとてつもなく大きなものですので、それによって工期が伸びても直ちには違約金は発生しないと考えられます。

A:前項の契約約款28条によれば、不可抗力等の正当な理由がある場合には、請負者から工期の延長を請求することができると定められています。
震度7という極めて大きな地震により、その後も物も人も動かない状況では正当な理由があると考えられます。
この約款を基にして、工期延長を請求して、施主と協議して下さい。

A:口頭で合意をしていれば、一応は契約が成立していると考えられます。 しかし、きちんとした契約書が無い以上、現実問題としては値上げに応じなければ工事は進まないのが難しいところです。

A:前述の契約約款29条によれば、経済事情の激変などによって請負金額が明らかに適当でないと認められるときには代金の変更を求めることができると規定されています。
震度7という極めて大きな地震により、下請の単価も大幅に上がったということが経済事情の激変と捉えられるとすれば値上げも可能性があります。いずれにしても、施主とよく協議することが必要でしょう。

貨物運送の問題

A:運送契約は荷物を目的地まで届ける内容ですが、今回の地震のような場合は、運送できなくても不可抗力と考えられます。
危険な山沿いの回り道をしてまで運送する義務はありません。

商法577条は運送会社やその運転手が運送について注意を怠らなかったことを証明できる場合には責任を負わないと定めています。
今回の地震は不可抗力ですので、注意を怠らなかったとして免責されます。
また、一般的な運送契約書では、「地震、津波、高潮、大水、暴風雨、地すべり、山崩れ等その他の天災の場合」には免責されると規定されています。

A:原発の不安は今回の震災の大きなファクターです。
屋内待避地域のお客様のことを思うと、運送会社として何としてでも届けたいという思いは当然です。
その一方会社の経営者として実際に運転していく従業員の安全に配慮するのも良く理解できます。
政府から屋内待避地域にも自主避難が勧告されている状況を踏まえると、法律的な問題と道義的な問題が切り離せず、極めて難しい判断になります。
まずは、該当地域の自治体災害対策本部と協議して下さい。

預金通帳・キャッシュカードの紛失

A:金融機関は普段は預金の払い戻しについて、預金者との同一性を厳密に証明することを要求しています。
きちんと同一性を確認しないで払い戻しに応じた金融機関に過失を認める裁判例がいくつか出されているからです(東京地裁平成11年4月22日判決等)。

A:今回は地震の規模と被害の大きさに鑑みて、地震当日に、金融庁と日本銀行が金融機関に対して、柔軟な取扱をするようにという要請を出しました。
具体的には次のような内容です。
・ 通帳を紛失した場合でも預金者であることを確認して払い戻しに応じること。
・ 届出の印鑑のない場合には拇印にて応じること。
・ 事情によっては、定期預金・定期積金の期限前払い戻しに応じること。

A:本人であると確認できる書類ですので、運転免許証、保険証、身分証明書等があればよいでしょう。
もっとも身体一つで逃げた場合には、それらの書類も無いことがあり得ます。
そのような場合でも前問の要請を踏まえて、多くの金融機関は杓子定規ではなく、個別事情を踏まえた対応をしてくれているようです。

A:勤務している会社が給与振込の手続を行っていれば、口座には振込がなされているはずです。 会社や振込金融機関に確認して下さい。そうした上で営業している別の支店で前記の通り、払い戻しについて対応してもらって下さい。

建築中の建物

A:民法上の原則からすると、請負契約は仕事を完成させるのが契約の基本的な内容ですから(民法632条)、請負人は再度建物を完成して引き渡す義務を負うことになります。
しかしながら、注文住宅の建築であれば、基本契約を結んでいるはずで、その場合には多くの場合民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款によって法律関係が決められます。

A: 平成21年に改訂された同約款21条では、不可抗力によって損害が生じた場合、当事者が協議して重大なものと認め、かつ、施工業者が十分に管理をしていたと認められるときには注文者が損害の費用を負担すると定めています。 従って、施工業者として再度完成させて引き渡す義務は負わないのです。

A:民法536条によれば、そのような場合には基本的には代金を請求できないのですが、先ほどから説明している約款では、代金も注文者が負担することになっています。
但し、今まで述べてきたことは契約書上の定め方であり、当事者間で十分に協議することが必要です。

A:鍵を交付したということは、基本的には建物の引き渡しを終えたことになるので、注文者が現実に入居していなくても、代金を請求することができると考えられます。
但し、引渡証の交付の有無や建物の登記がどのようになっているかも判断の重要な要素となりますので、弁護士に事情を詳しく説明して相談して下さい。

A:契約書どおりの法律関係にあるということを前提として、更に十分注文者と協議することが必要でしょう。

手形・手形帳の流失

A:手形金の支払いを受けるためには、現に手形を所持しており、支払いと引換に手形を振出人に交付することが必要です。
このことは手形授受の原因関係上の債権(例えば売買代金債権)の行使についても基本的に同様です。
今回のように手形の現物を喪失してしまった場合には、まず警察に遺失届を出して下さい。その上で、簡易裁判所に公示催告の申立て(非訟事件手続法141条)を行い、除権決定(同法148条1項)を得れば、手形なしに振出人に手形金を請求することができます(同法160条2項)。
ただし、この除権決定を受けても、裏書人に対する遡求権の行使はできないと考えられています(最判平5・10・22)。また、除権決定には時効中断の効力もないので、注意が必要です。

A:除権決定が出るまでには半年程度の期間がかかります。
早期に資金が必要だということであれば、振出人に対して「今後他に手形上の権利を主張する者が現れた場合には、その解決については当社が一切の責任を負います」といった念書を差し入れて、除権決定前に支払ってくれるようお願いするもの一つの方法だと思います。

A:手形帳についても、やはり警察に遺失届を出して下さい。 このとき、将来手形帳が悪用された場合に備えて、遺失届の受理証明をもらうことを忘れないで下さい。銀行にも同時に遺失届を出しておくとよいでしょう。

倉庫に保管中の商品の散失

A:契約書が交わされていたかどうかで違ってきます。
契約書が無かった場合には、商法617条により倉庫業者が保管に関してきちんと注意をしていたことが証明できれば、責任を免れることになっています。
更に契約書を交わしていた場合には、ほとんどの倉庫保管契約書には地震や津波による損害の場合には、倉庫業者は免責されると記載されていますので、契約に基づき責任は発生しないことになります。

A:今回の東日本大震災のような想定範囲を超えた地震や津波の場合には、不可抗力として倉庫業者に過失があるとは言えませんので、損害賠償の責任は負わないことになると思います。

A:倉庫内に保管していたとしても、搬出ができないということは倉庫契約の目的を達成できないことになります。
民法536条は、この様な場合契約の対価である保管料の請求はできないと定めています。

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