震災法律相談Q&A

労働の問題

賃金の減額

A:賃金(給料)は労働契約の重要な要素であって、その減額には、使用者・労働者双方の合意が必要とされるのが原則です(労働契約法9条)。

A:賃金制度を個別の合意(労働契約)ではなく、就業規則やその下位規範としての賃金規定(細則)などで定めている会社も多くあり、このような会社では確かに就業規則等を改定することで、個々の労働者の同意なく一方的に賃金体系を変更することができます。
ただし、このような就業規則等の不利益変更は、①労働者が被る不利益の程度、②使用者側の変更の必要性、③変更の社会的相当性、④不利益緩和措置の有無、⑤手続の妥当性等の諸事情に照らし、その変更内容が「合理的」である場合に限って法律上有効とされるものであって(労働契約法10条)、無制限に認められるものではありません。
ご相談のケースについては、震災による業績悪化という事情はあるにしても(②)、20%の減額という労働者の不利益の程度は極めて大きいと言えます(①)。
20%という減額の幅が被害の実情や同地域の他社と比較して相当なのか会社側に説明やその裏付け資料の提供を求め(②③⑤)、また、仮に一定の減額は仕方がないとしても、減額幅の縮小や減額の期間を限定するなどの措置を求めるべきでしょう(④)。
それでも会社側から納得のいかない回答しかない場合、また、自分ひとりでは会社と話ができないような場合には、弁護士や労働基準監督署に相談してみて下さい。

A:ご相談のケースのように使用者が労働条件の変更を申し入れ、これに応じない場合には労働契約を解約するとの意思表示は、変更解約告知と言われます。
この変更解約告知は、「解雇」をちらつかせることにより減額などの労働者に不利益な条件変更を飲ませることを目的としたものと言えます。
このような変更解約告知に対しては、労働者は変更には応じずに勤務し続けることができる(=減額分の差額を請求できる)と解されています(異議留保付承諾)。
また、変更に応じなかった結果、使用者から解雇を言い渡された場合であっても、「解雇」は客観的に合理的な理由がありかつ社会通念上相当である場合に初めて有効とされるものであって(労働契約法16条)、賃金減額に応じなかったという事情だけで即有効とされる訳ではありません。
「解雇」の有効性については、個々の事情に基づいて判断する必要がありますので、弁護士や労働基準監督署に相談してみて下さい。

勤務先の休業

A:「使用者の責」による休業の場合には、平均賃金の60%以上相当の休業手当が支払われます(労働基準法26条)。
しかし、その休業の原因が、①外部(事業主の範囲外)で発生した事故であり、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできないものである場合には、不可力によるものとして「使用者の責」には当たらず、事業主には休業手当を支払う義務はないとされています。
従って、今回の震災により工場・事業所が直接的な被害を受けたため操業が不可能になり休業する場合には、上記の①及び②を満たし不可抗力による休業といえ、勤務先には休業手当を支払う義務はありません。
他方、震災による直接的な被害は受けておらず、顧客からキャンセルが相次いだり部品調達が困難となる等間接的に影響を受けているに留まる場合には、原則として「使用者の責」による休業に該当し、休業手当を支払う義務があると解されています。
ただし、具体的な事情に鑑み、上記①②の要件を満たす場合には例外的に不可抗力とされる場合もあります。
また、計画停電に伴う休業については、厚生労働省では、停電時間帯に限り休業とする場合には不可抗力として休業手当の支払いは不要とし、停電時間帯を含め1日全部を休業とする場合には原則として「使用者の責」による休業に該当し休業手当の支払いが必要と位置付けているようです。

A:今回の震災は激甚災害に指定されたため、特例措置として、実際に離職しなくても休業期間について雇用保険の失業給付を受けることができる場合があります。
ただし、失業給付は年齢、被保険者期間等により最大360日分受給することができますが、その特例による受給期間が満了する前に勤務先が事業を再開すれば、給付は打ち切りとなります。さらに、この特例措置を利用していったん失業給付を受けた場合には、被保険者期間が振り出しに戻り、その後実際に離職して改めて失業給付を受ける場合に受給金額が小さくなる可能性があります。
今回の特例措置にはそれらの制約があることに留意し、勤務先の事業再開がいつごろになるか見通しをつけた上で、受給申請をするかどうか判断することが必要です。
制度・手続の詳細についてはハローワークにお問い合わせ下さい。

A:多くの会社の就業規則には兼職禁止条項が定められていることが多いです。
しかし、法律解釈上は、勤務先への労務提供に格別の支障を生じさせるものでない限り、懲戒処分の対象にはなりません。
したがって、勤務先の休業期間中に限り行う一時的なアルバイト等については問題ないでしょう。
ただし、後々トラブルを回避するためにも、勤務先にひとこと言っておくことが望ましいといえます。

勤務先の倒産と解雇

A:解雇は合理的な理由があり、かつ社会通念上相当である場合に限り認められるものです(労働契約法16条)。
したがって、震災による影響を受けたからといって無条件に解雇が認められるものではなく、震災にかこつけた解雇はもちろん許されません。
しかし、大震災の影響で事業所が大破・流出し事業の再開が客観的に困難であり、経営者としても会社を整理する方針である場合には、解雇もやむをえないものとして有効とされるでしょう。また、通常、解雇に際しては、未払賃金や退職金(定めがある場合)の支払いに加え、30日前に通告するか、30日分の平均賃金相当の解雇予告手当を支払うことが必要ですが、上記のように震災による直接的な影響を受け事業継続が不可能な場合には、予告手当を支払わずに即日解雇することも許されています(労働基準法20条1項但書)。

A:事業主が、①破産等法律上の倒産手続をとったり、②事実上倒産し、賃金や退職金が支払えない場合には、国(正確には独立行政法人)が一定の範囲で立替払いをする制度があります。 制度の対象となる範囲や具体的な手続については、各労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

採用内定の取消し

A:採用企業側は、震災が起きたからといって、自由に内定取消しができる訳ではありません。
採用内定通知を出している場合には、実際に働き始める前であっても、既に労働契約が成立していると考えられています。
そして、その取消しは、解雇の場合に準じて、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」であると認められる場合に限り認められます(労働契約法16条参照)。
確かに、震災の影響により、経営状況が悪化している企業も多いと思いますが、行政や金融機関などで様々な雇用維持に向けた支援策を提供しています。これらの支援策を利用するなどして、できる限り内定取消しをしないような措置をとることが望まれています。
また、これらの内定取消し回避のための措置を真摯に検討し(実施できるものについては)実施したか否かが、事後的にその内定取消しの有効性が問題となった場合に考慮される重要な事情の1つにもなります。

震災と労災

A:業務災害として労災の認定を受けるためには労働者のケガや死亡が「業務上」生じたものであること、すなわち業務とケガ等の間に一定の因果関係があること(業務起因性の要件)とケガ等が労働関係のもとで生じたこと(業務遂行性の要件)の2つの要件を満たす必要があります。
一般的には、天変地異により被災した場合、その被災は、事業主の支配下にあることの危険性が現実化したものではないため、「業務起因性」が認められず、保険給付が認められないものと考えられてきました。
しかし、阪神大震災等近時の自然災害による被災について、国は、地震による被害を受けやすい危険な環境下において働いていたとして労災と認めるなど、柔軟に解釈をして認定を行っているようです。
今回の地震・津波に関しても、東京労働局のHPでは、「仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労働保険給付を受けることができます。」と回答しています(同HP東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A参照)。
個々のケースについては、各労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

A:労働者の方がケガをした場合には、①治療ないし治療費相当の「療養補償給付」、②「休業補償給付」、③障害が残った場合に支給される「障害補償給付」、④①を一定期間以上継続して受けている場合に支給される「傷病補償年金」、⑤「介護補償給付」があります。また、亡くなられた場合には、⑥「遺族補償給付」、⑦「遺族補償年金」、⑧「葬祭料」を受けることができます。
それぞれの具体的な給付内容・請求手続については、各労働基準監督署等にお問い合わせ下さい。

A:上記各給付の支給決定を請求する権利に関する消滅時効は、①②⑤⑧については2年、③⑥⑦については5年とされています(労働災害補償保険法42条)。
④については職権決定によるものですので時効の問題はありませんが、あくまで①が前提となります。

A:事業主側で必要な手続をしておらず保険料を納付していなくても、労働者は保険給付を受けることができます。

給料の支払い(会社経営者からの相談)

A:本来、賃金は就業規則等にそって毎月決められた支払日に支払わなければなりません(労働基準法24条2項)。
そして、これに違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられます(同120条1号)。しかし、震災が原因で資金調達等の努力をしたにもかかわらず賃金を支払うことが出来ない場合には、不処罰となると考えられます。
ただし、賃金を支払う義務を全く免れるものではありません。したがって、資金繰りがついた段階で、年6%の遅延損害金を付加して支払う義務があります。

A:賃金は就業規則や賃金規定で定められていることが多く、賃金の引き下げにはそれらの変更が必要になります。
賃金引き下げのような労働者に不利益な事項については、就業規則等を一方的に変更することは原則として許されません。しかし、その変更内容が「合理的」なものと認められる場合には、例外的に、個々の労働者の同意がなくても引き下げが可能です。
ただし、「合理的」と認められるかどうかは、個々の事情に基づき判断されますので、労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士などに相談することをおすすめします。
なお、就業規則の変更の効力は遡りませんので、変更以前の賃金については従来の金額を支払う必要があります。

A:今回の震災のように、労働者・使用者のいずれの帰責事由なく、労働者が勤務できない場合には、労働者は賃金請求権を有しません(民法536条)。
したがって、法律上の支払義務はありません。
また、休業手当も「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合に支払われるものですので(労働基準法26条)、震災のような不可抗力による場合には支払うべき法律上の義務はありません。しかし、労働者と十分に協議し、積極的に有給休暇の取得を認める等、柔軟な対応が望まれます。

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